巻之13  〔20〕白川老侯の近詠

 その席にて、同人白川老侯の近詠を吟ずる中、

 梅枕薫
 目覚れば夢の行へもかほるかと
      まくらにたどる風の梅がか
 
 春雨
 春雨につたふ雫はつぼみにて
      咲ものこらぬ庭の梅がえ

 春夜
 霞ても花のところはさやかにて
      柳にうとき春のよの月

  この外数が多いので一々記録するに及ばない。和歌の才気の俊逸なのは、近世にてはこの侯に超えるものはないだろうと林子が論じた。
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 巻之13  〔19〕百花菴宗固の歌

 あるとき林子が歌物語の序に云ったこと。

 近世地下の歌仙で、百花菴宗固など頗る称するに足りる。某の親戚の家に、宗固の冷泉家へ点を乞うた詠草を多く蔵(おさ)めた。その中の記憶する歌として吟じた。
 
   夜盧橘
 宵のままに見し夢をさへ暁は
       むかしになして匂ふ立花
   冷泉宗匠、長点にしてよろしく候と書き入れられた。 
  
   夢中時鳥
 夢なれやまくらならべて寐(さび)し人も
       きかぬ初音の山ほととぎす
   宗匠、長短の二点を掛けられた。
  
   野夏草
 冬ならでかかる人めや通ふべき
       道も夏のの草の庵は
   宗匠一点にて、これもよろしく候とされた。

 また云う。宗固の集は、『しののは草』とてその子孫が蔵板(版木や刷った本)にしてあれば、需(もと)めてその大全を見るべきかと。   

巻之46  〔2〕玉川堤の桜

 林が語った。

 寛文10年(1670年)5月の記に、玉川の水道が狭いと3間堀を弘めた。両岸に堤を築き、樹木を植えた。徒目(かちめ)付け両人が奉行よりそうせよと命じられたと見える。

 小金井の桜花を、享保(1716~1736年)中に新栽したと世に伝わるのは誤りで、この時の事になると思われる。

三篇  巻之5  〔18〕麻布久保町の婦の心残り

 (また)近頃のことで麻布久保町に下匠の夫婦のみ暮らしていた。夫婦は困窮して、ある時妻が棟匠の所へ、金を借りに行った。棟匠は「金銀があれば貸すのに、生憎これしかない」と云って、嶋縮緬を与えた。妻はこれを持ち還り、夫に告げて質入れした。金3万を受けた。

 それから妻は病に倒れ伏せってしまった。夫はますます追い詰められてしまった。妻はその様子を見て、先に希望が見いだせず、哀しみの中死に至った。

 これより夜になると質屋の戸を叩いて、「衣を返して下さい」と云う者があった。声は匠の妻のものだった。店の人、これに応じて、「深更なり返せぬ。明日また来られたし」と云った。この様な事が三夜続いた。店人は迷惑に思って、夫に告げた。夫は、「妻は先日逝きました。これが位牌です」と見せた。店人は驚いて、主人に告げた。主人は、「これは婦人の執念だね。今宵来たならば、衣を返しておあげ」と命じた。

  店人が待っていると、妻は深夜にやって来た。恐ろしく思う店人は、戸を少しだけ開いて、質衣を返した。妻は喜び、代物とて紙包みを置いて去った。店人はいよいよ畏れ、戸をたちどころに閉めた。
次の日紙包みを開いてみれば、今坂餅が5つ包まれていた。主人は驚いて、夫に知らせた。夫もまた、「檀寺が私を来るように云って来ました。往きますと質衣が妻の墓に掛けてあったというのです」と云った。2人は驚き、妻の心残りを畏れ、質屋と語り合った。

 店主は妻の心を憐れみながらも、亡霊の思いを怖ろしく思った。質札は夫に渡した。
 
 夫はこの衣を掛け幡につくりかえ、寺に寄進した。これは狐狸の所為ではないだろう。しかし僅かに5つの餅を1枚の衣の払いに当てる。亡霊の如きは金銭に乏しいか。世の利欲を専らとする者、大黒天に貸宝を授かろうと祈るも、この類だろうか。

 巻之24  〔10〕甲州伝目つぶしの法

  (また)会談に小幡勘兵衛景憲より伝えた目つぶしの法と聞いた。
  
     蛍火  山蔭の田にし  青とかげ   蜈蚣(むかで)
     馬の眼〔馬の目をほりとる〕    各当分〔卵の中に皮を入れる〕

 これは大いに験がある。投げて胸枝に中(あた)れば、そこが忽ちしびれて、手は揺れる事が出来ず、胸は気塞ぎ身動きが出来ぬ。若しくは鼻口の辺りに中れば即ち絶倒すると。

 また「これが甲州伝ならば、その本は信玄より出たのでしょう。信玄が毒矢を用いる事はこれの類ですね。またこれに遭う者に回復する薬もありますよ」と聞いた。

    塩   ひき茶

 この二物をといて、中ったところに塗れば、忽ちその毒気を散じ、揺動を生じる。また絶倒した者には、湯に加え服すれば乃(すなわ)ち活きると云う。

※ここに書いてあることは、決して行われませんように。飽くまでも書物の記録を読んでいるところでございます。

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