2020/09/28
巻之八十一 〈三〉 雲伯両州のはなし
蒲生亮が京に住んでいた時、雲伯両州に行ったと云うので、両州の話をあれこれと聞いた。伯州の大山は上り七里。
山の勢いは陵遅(丘陵が緩やかになること)で上り易い。
四里を上がれば、それよりいまだ三里を余らせても、盛夏でなければ、登ることを許されない。
亮がかの所へ行った時、四里程を上がりここで宿したが、その辺は全て牧地で馬を産することが最多い。
また山林も深いので、夜陰に狼の声がよく聞こえる。
とすれば、狼も多いに違いない。その声は如何にかと聞けば、牛が吼える様だという。
またかの地にて狼の子を捕えたが、形は猫よりやや大きく愛らしい。
それで雲州松江城下に連れていく者がいて見世物にしたりする。
その時見物の中、里犬を引っぱってきて、狼の子を見せようとした。大きな犬だったが、中ほど三間もない距離で足が進まなくなった
鞭を打っても何分にも先に出ない、踵を返したという。
狼の子はまだ小さくて意識していないが、その威風が自ら備わる姿に人々は驚いた。
また松江は都会繁盛の地である。家数も千はあろうか。
松江の名を得たのは、湖の縦六里余り横ニ三里。
湖の中には鱸(スズキ)魚を産する。
大きく美味である。官の献上に充(あ)つ。㊟〈🔜〈あつ〉を〈まつ・え〉の言葉遊びらしい〉
これから何人(なにびと)か地名に為したのだろう。
また狼は昼は横になり、温柔である。夜になると、奮起して鳴いて走る。
その毛は天を打つと。また陰獣(夜行性)とすべき。