2020/12/29
三篇 巻之十ニ 〈1〉 盛姫君、浜御庭御入り その3
(少しお疲れになられたか)近くの松の腰かけ(といわれている)に少し休まれた。浜の景色が描かれている御たばこ盆や、御ついたてをここに下される様は、めったに目にすることはなく、誠に驚くものである。
またつばめの御茶屋では、数々の御生花を置いた様も素晴らしいのだ。
うちならふ(並ぶ)花のかずかずめづらしな
いづれをそれとわきてめで見ん
それから中嶋が(姫君のおましになる場へ)参った。
とても素晴らしく包んだ御煙草を下し給うのを
もしほやく煙ならねどたてそへて
秋の日あかずここにたのしむ
(などと仰っている)
猶様々の所々を巡り、富士見の御山に上り見ると、とてもよく晴れわたっている。
幾千里へだてて遠にふじの根も
霧打ちはれて見るはまぢかき
やがて「魚舟が出るぞ〜」と告げているので、海の手の御茶屋に行って、簾から間近に寄り、漁師の編みうちをご覧になる。
うるわしや波ぞうたにも網引する
あま(海人)の小舟をみるはめづらし
ここも過ぎて、貝等を拾って、松原の御腰かけに立ち寄られると、心を込めた数々の御切り花を(姫君に)贈られた。
あかずのみ恵みの花のかずかずを
猶たのしまむ秋の明けくれ
と仰がれ、猶日毎の楽しみにしようとなさるのがとても喜ばしい。
そこも過ぎて、塩釜の側に参られた。五色の塩等を給われて、
見るはけふはじめなりけり海人の
藻しほ焼てふおのがしわざを
※見るもの聞くもの珍しく五感に刻みながら、次々と足を延ばされる姫君の御姿が浮かびました。
歌も活き活き、若さが弾けておられ。。。(年かさのお付きの者は、海辺の太陽光を浴びながら、付いて行かれるのは、さぞお疲れになったでしょう💦)。