巻之45  〔15〕 日置流射法

 日置弾正(日置流射術の祖、生没年は不明、1492~1501に活躍した)より伝えられた古法の射術を知る者がいて、わしはこの頃入門して習っている。
その法は種々ある中に、くるり矢の射法がある。

 このくるりと云うのは、浮禽(うきどり)が水上などにいる所を射る為のやり方である。
その術の大略は、矢の制は矢末に軽い木に小さい鏑(かぶら)をつけて、その先に半月鏃(やじり)を打って、この矢を弓を伏せて放つので、矢は水の上を走って、浮禽の脇腹に中(あた)る。 
その術は見ない人は知るのは難しい。

 わしは思うに『正治二年百首』の中にある源仲正(平安後期の武将・歌人、生没年は不明)の歌に

    わが恋は くるりいながす 川のせに
     たちぬる鳥の 跡はかもなし

 この歌を思うと、射流すと云うこと射法のようである。
知らぬ人はただただ言葉のみと思うだろう。

 またたちぬる鳥と云うのは、跡方も無しと云っていて、わが恋の遂げられない思い入れが面白い。
正治の頃は(2年は頼朝薨年)猟獲の射にはこのような技があった。
が今は浮禽を射るにも、礼場の射法なので、中らぬはずである。
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三篇 巻之9  〔2〕 印宗和尚とはなす

 わしの荘中に寓(よ)せる印宗和尚が対話してたとき1枚の紙を見せて云った。
「『法苑珠林』にこのような句がありました。心に留まったので書き出して来ました」。
わしは思った。
「これは弓卒の射術を修業する者と合壁(壁一つ隔てた隣家)なれば、その為に感語したのだろう」。
また聞いて如何にもと思ったのでここに書く。

 唇口の如きはこれ弓なり。
心慮は弦の如く、音声は箭の如し。 

 また弓卒の軍射を学ぶには矢を放って弦が離れるとき、「エイ」と矢声(ヤゴエ)をかけ、矢物に中(あた)ると、「ヤア(引)」と矢叫びをする。
それなのに印宗和尚はいつも聞いているので「「エイ」は曳(エイ)だから口内へ引く音なれば、弦を控(ひ)いて留まる」と云う。
がこれは僧の云ってる事を聞いているだけなので、その実はわけも無く、矢弦を離れるとき、心気の声に発するのみである。
これ等は武夫は射て知っていることだ。

 また印宗が言うには「ヤア(引)」とは矢先へ発するとき、その声も「ヤア(引)」とともに出ると云われたがこれも聞き耳の説であり、これは矢は既に物に中っていて、その中(アタリ)に応じて「ヤア(引)」と云って叫んでいる。
みなその道の者は試して知っている。

 また弓術のうち、「エイ」、「トウ」と声をかけるのも、印宗が云うには、「「エイ」は曳(エイ)で弓を彎(ひ)くことです。「トウ」は当と書くべきでしょう。矢が物に中ると云われるが、これもこれで、弓場間がせまってくるときのことで、手近い物を「エイ」と声を発し射るので、はや敵は手詰まりになるのは、弓で「トウ」と撲踣(ウチトウ)す底のとき、その声掛けをするのですよ」。

 これは声掛けするとは云っても、実は自然に出る声ではなかろうか。
印宗和尚は僧のことゆえ、物を隔てて聞いて、書を引いて明らかにする解釈なれば、宜なるかな。
武門の実用はわからないけれども。

続篇  巻之14  〔7〕 加藤嘉明の甲冑

 弥生の末、石虎と云う軍講者に逢ったとき、彼が云った。
 加藤左馬助嘉明は、(世間で)想われるのとは違う小兵で、聊(いささか)も勇威の風のない人であるが、ただ心胸の猛烈なことは衆人に勝れる質であるという。

 また石虎が云う。
松平不昩殿〔退隠後の名は、松平出羽守治郷〕の供をして雲州に往ったとき、勢州水口で城主加藤氏に請いて、その家伝の兜を見られた。石虎も傍にいて見たが、その形富士山の体をして、下の広がり三尺ばかりである。
その心に思うのは、猛勇者の大兜だから、さぞや重かろうと、力え入れて上げると、甚だしく軽い。
思わずも後ろへ転んだというぞ。
薄金作りで、見かけと違い、殊更軽いものであったと。
今石虎が言って図にしたところ、写真の如し。

 また嘉明の鎧と云うものは、革具足で、殊に軽い靖(つくり)である。
すると力量も無い人で、重さには堪(た)えられぬかと。
古人の中には思いの外のこともあるものだ。

 また後日その鎧のことを石虎に問うた答えに、「勿論革胴で、胸板の所に天人の羽衣を描いたものである」と。
石虎は親に視せたと云う。
かの家では、富士の甲(カブト)、天人の冑(ヨロイ)と称するとぞ。

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