続 巻之十七 〈一〉 盗みを学ぶ者(笑い話)

盗みを学ぶ者がいた。
師事して云うには。
戸外に至れば、まず犬猫の鳴き声を出せ。
間違っても人の様子を出さないこと。
また示された。
(人の気配を悟られると)家の主は必ず疑って家人と様子を見ながら「これは誰だろうか」と言い合うだろう。
その時また鳴き声を出し続けると、これ以上は疑うことはない。
この様にして、盗みをすればよい。
門人は教えを受けて去っていった。
ある夜、人家に入った。
そして猫の鳴き声を出した。
主ははたして疑い、家人とおかしいと語った。
主はまた疑い、「誰だ?」と問うた。盗人は外に出て云った「猫です」。

続 巻之十七 〈一〉 盲人と灯明(笑い話)

盲人が、ある家を訪ね日が暮れた。
出ようとして灯明を借りた。
主が聞いた。
「盲にして何の役に立つのか」。
盲人が答えた「わしは暗くてもよい。他の闇を行く者がわしに当たらんとも限らんでな」。
主は「しかり!」と灯明を渡した。
盲人が歩くこと数十歩、人がいる!慌てて「盲にぶつかるとは!盲の盲であるぞよ!」。
その人曰く「汝、何と云うか」。
盲人曰く「おのれもまた何と云うか!灯明が目に入らぬのか」。
その人曰く「暗闇ではないか!」

続 巻之十七 〈一〉 掛け軸(笑い話)

ある人が、某の家を訪ねた。
床上に掛け軸が掛かっていた。
そこには文字が数行あった。
「何と書いてあるのでしょうか。この数字はいかなるものでございますか」。
亭主が答える「讃(さん)!」。
この男、また別の処を訪ねた。
ここにも床頭に掛け軸があった。
男は賞して「讃は面白うございますね」と云った。
亭主は「これは詩(し)であるぞよ」と答えた。
別な日にこの男、別の処を訪ねた。
ここには絵はなく、横物即ち巻き物に文字ばかり。
男は「詩(し)は面白うございます」と賞した。
ここの亭主は「ある禅師の語(ご)である」と答えた。
男ははや心得て、次の家を訪ね、そこではこう云った。
「語(ご)とは面白いものですなあ」亭主は「語にはあらず。録(ろく)なり」と答えた。
客は、そこを出て「おれは、三(讃)、四(詩)、五(語)、六(録)と転んでいくなあ。あ、次はきっと、七だな」と独り言を云った。
また日を改めてある豪商を訪ねた。
素晴らしく美観の自慢の庭園だった。
家に上がり床上には、掛け軸があって、画上には数字が描かれていた。
客は「御掛け軸には七(質)とあるのでしょうか」と云った。
亭主の顔にはみるみる怒る色が現れた。

続 巻之十七 〈一〉 十二支へ狐と鶴(笑い話)

十二支のもとへ狐と鶴がやって来て言った。彼らは禽獣の霊物であり、申し合わせて来たのだ。「願わくは十二支の中に加え給え」と。
すなわち子と丑が相談した。寅卯以下皆曰く。「両禽の名を十二支の中に加えるべし。古来より人が称して来ているが、いかが唱えんや」と。
狐鶴曰く。「ならば、狐子丑寅卯辰鶴巳午未と唱えん」。

続 巻之十七 〈一〉 仁王の木像のひねり(笑い話)

仁王の木像に噛んだ紙を吹きつけると、その当たった所が力強くなるという。
参詣の輩が集まって仁王門に向かって紙を吹きつけた。
その中の一人が云った。
「これはしたり。あの紙の中に金子を入れてやした!」。
これを聞いた木像は手を動かして、顔や腕の紙をひねりひねりしたのだと。

続 巻之十七〈一〉 四文銭

明和のときに四文銭が鋳造された。
はじめはなかなか流通しなかった。
一士人が下僕と浅草観音に参詣に出かけた。
本堂で一銭を投じた。
見ると四当銭(四文銭とも云った)ではないか!
主人は下僕を見て曰く。
「一文はなんじの為の銭だな」。

続 巻之十七 〈一〉 芸妓の屁

ある元芸妓が禿(かむろ)に手習いをさせていた時に思わず屁をした。
禿に恥ずかしく、偽って云った。
「あたくしの母からの教えに一月に一度ずつ必ず恥をかく様にとあるから、今月の恥をかいたのよ」と云った。
下の口より、また屁をした。
元芸妓が禿に示して云うには。
「いくら親孝行だからといって、来月の恥までやるのは取り越しだわね」。

続 巻之十七 〈一〉 燈心は何から出る(笑い話)

手習い師匠の弟子が二人言い争いをしていた。
燈心は何から出来ている?
一児が云う「山吹のしん」。
もう一児が云う「いぐさのしん」。
決せず。
師匠は酒好きでな、是非を聞かんと、ニ児は各々こっそりと酒肴を携え、師に賄し、己が勝とうとした。
師もまた其々受け取った。ニ
児は喜んで帰った。
後に師を前にして是非を聞いた。
師曰く。「どちらもさにあらず」。
ニ児は訝る。
師に迫り聞く「ならば燈心は何から出るのですか」。
師答える「紙燈(あんどん)の引き出しから」。

続 巻之十七 〈一〉 寺の坊主の顔に落書き(笑い話)

寺の坊主に字を習う者が多くいる。
とかく手習いの子どものいたずらで、昼寝して起きてみると顔に墨でぬり絵をしている。
それで洗い落とすと、寄り合って手を柏ち笑う。
時には朝起きると、夜の間に顔に絵をかき置いている。
坊主は大いに立腹するが甲斐なし。
ある日、子どもが知らない所に行って昼寝をして、起きた。
だが心元なく、鏡を出した。
「子どもらめ、どうしてわしが寝ていた所を知っているのか。また顔に南天を書きおった!!!」
坊主は鏡の裏を見ていたのじゃった。

続 巻之十七 〈一〉 文盲の父とその娘(笑い話)

一女がいた。年は十歳。
父は文盲だが、娘の事によけいな口を出す。
娘は(父が)人前ですることを宜しくない気持ちでいたが。
ある時人が来てまた口を出してこう云った。
「それがしの小娘は手習いに精を出しています」が、吹聴した。
客が「御清書はありますか」と云うと娘の清書を持ってきて、開いて逆さまに出した。
娘は「それは逆さよ」と云ったが、「御客の方から見やすいようにしたのだ」と云う。
客も心得て、「読みものもなさるのか」と聞いた。
「随分いたしました。百人首も僧正遍昭までおぼえています」と云う。
「おやおや、僧正遍昭どころではなく、その先まで覚えておられるのでしょう」と云ったのを聞いた娘、「なら、十方世界まで覚えなきゃ」と云ったと。

続 巻之十七 〈一〉 座頭

座頭が両国橋に行きかかった。
杖が、犬に当たった。犬は驚いて、鳴いて走った。
座頭も驚いた!
また歩いて数歩!また、また、
また杖が、、、犬に当たってしまった!
犬は鳴いた!驚いた!走った!
「これは長き犬よの!」と座頭は云ったとさ。
〈一〉
ばか貝売りが「ば〜か〜、ば〜か〜」と云って売り歩く。
ある戸口から「ば〜か〜、ば〜か〜」と呼ぶ声がする。
売り手は振り向いて「ばかとはお前か!!」

続 巻之十七 〈一〉 親が子どもへ教え

親が子どもを教え戒めている。
「よく思いたまえ。親を求め様としても千金でも買えないのだ」としばしば云っている。
子どもはひれ伏して謹聴している。
親はなおこれをいうと、子どもは少し頭をあげた「ごもっともに承りました。しかし売りに出して、三百でも買い手はありますでしょうか」。

続 巻之十七 〈一〉 耳が聞こえなくなった年寄りの小言

ある年寄が年老いて耳も聞こえなくなってしまった。
常に子孫に小言を云っている。
子どもを顧みて物語る「今どきの者はどうも不精でいかん。わしらが若い時は」とかようにはなしと云う時、飼い置いた鶏が側で時を作った(鳴いた)。
老人は云う「あれを聞きたまえ。人ばかりではなし。
鶏さへ、今どきは羽ばたきばかりして鳴きはせぬ」。

続 巻之十七 〈一〉 笛屋

わしが十二三の頃、湯島の女坂下に笛屋の新見世が出来た。
雉笛、鳩笛は云うに及ばず、カッコウ笛、頬白、目白の類、大小の鳥のこえ。
虫はキリギリス、ヒグラシ、松虫等、その声音を笛に移さないことはない。
実に珍奇の仕出しである。
その頃ある者が寄り合い、この笛屋の咄をしていた。
「見たかや、見てないかや」などと話している。
その時一人が早く知っている事を云おうとせき込んだ。
「あの笛屋にない物はないね〜。花の鶯、水の蛙はもちろん、百足笛にゲジゲジ笛までもあるんだよね〜」。

続 巻之十七 〈一〉 衆分、大溝に陥った

衆分(シブン、盲人初官、座頭の下位)が装束を着て路を行く。
誤って大溝に陥った。
通行人が驚いて、哀れみ助けようとした。
衆分騒がず「孑孑(ボウフラ)をとるところ」と云った。
通行人は不審に思った「衆分どの、捕ってどうするのじゃ」。
衆分が答えた「検校(検校金魚)に食わせたくてな」。

続 巻之十七 〈一〉 迷子

五六歳くらいの迷子がいた。
町役人は住所を尋ねるがわからない。
腰に迷子札があるかと見るがない。着物の下に書いてないかと、着物を脱がせ見るがそれもない。
臀部に大きな痣(アザ)がある。
町役人は近づいて見ると屁を放った。
それを頼りに聞いて回るが住所は分からない。
町役人は独り言を云った「尻にアザ、屁となると、麻布の者ではないなあ」。

続 巻之十七 〈一〉 金時が出るぞ

世間の子どもが駄々をこねる時に「化け物が出るぞ」と脅して止めさせる。
続けて云う「坂田の金時は化け物を退治して、化け物はこれに勝つことはなかった」。
ある人が化け物の子どもが駄々をこねるのに出くわした。
化け物の母は子どもを泣きやますのにこう云った「金時が出るぞ、出るぞ」。

続 巻之十七 〈一〉 鳶に自然薯を奪われて

ある士が今日は特によい日和だったので、下僕を連れて田舎へ遊山に出かけた。
そこで、自然薯を貰い、下僕に持たせて帰っていた。
ところが、鳶に自然薯を奪われてしまった。
下僕は憮然として主に告げた。
「油揚げなら鳶も盗るだろうが。
薯は何にもなるまいに!」と云えば、鳶は梢にいて鳴いた。
「ひいとろろ〜、ひいとろろ〜」。

続 巻之十七 〈一〉 鳶と烏の鳴き声掛け合い

鳶が烏に話しかけた。
「商いをしたいんだが、何を売ったらいいだろうか」。
烏が応えた。「ならばビイドロをうったらどうだい?わしが買おう。お前さんは、いっつも空を飛んでるからな‥だから店はできないぜ。あ、売って回るんだ」。
鳶はビイドロを籠にいれ、あちこちに売りあるいた。
「びいどろろ〜。びいどろろ〜」。
烏は屋根の上、林の木にいる間、「かをう、かをう〜」。

続 巻之十七 〈一〉 手が上がる

手習い子が天神様を寿き、「どうか手が上がりますように成され給われ」と申した。
かくして日々通っている。
ある夜、夢想に「汝に寿かれ久しい。けれども手習いが不精である。それでは上達することはない。これからは精を出すように」と言われた。
習い子は夢からさめ、早速天満宮に参詣して、「御夢想ありがたく存じます。けれども手習いは嫌でございます。何卒手習いをせず手が上がります様に」と祈願して、七日の間通夜し、起誠した。
七日に満ずる夜の夢の中に天神現れ給い、「汝の言うところは承りぬ。ならば手を上げてとらそう」と言われた。
習い子は喜び、夢から覚めてみれば、肩から手がなく、両頬から(手は)生え出ていた。

プロフィール

百合の若

Author:百合の若
FC2ブログへようこそ!

検索(全文検索)

記事に含まれる文字を検索します。

最新の記事(全記事表示付き)

訪問者数

(2020.11.25~)

ジャンルランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
1143位
ジャンルランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
歴史
157位
サブジャンルランキングを見る>>

QRコード

QR