続 巻之十七 〈一〉 笛屋の新見世(世俗の落咄)

わしが123の頃、湯島の女坂下に笛屋の新見世ができた。

キジ笛、ハト笛は云うに及ばず、カッコウ、ホオジロ、メジロの類、大小の鳥の声、虫はキリギリス、ヒグラシ、マツムシなど、その声音を笛に写せないことはない。

珍奇な仕事なり。

そのころ、ある者達が寄り合い、この笛屋の噺をして、見たか、見てないかなどと言っている。そのとき1人、早く知っている事を云おうと咳込んで、あの笛屋にないものはないとのこと。

花のウグイス、水のカエルはもちろん、ムカデ笛、ゲジ笛まであると。

辻番所に草木でかきを構えている。

往来の1少年が、その中に小便をしていた。

番人が見咎め叱りつけ、なんてことをするんだと云えば、少年は、ここに(他の人の)小便の跡があるじゃないかと云っている。

だから、ワシもここにしたんじゃと。

番人が云うには、それは前に1人小便をして、叱った跡なんじゃ、と。

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続編 巻之17 〔1〕 灸を落とす(落し噺)

わしが少年の頃、仕舞を水戸侯の大夫、犬塚新五郎に学んだ。

新五郎は1年、上総より召使を置いた。

1日、召使に灸をすえさせるのに、度々落とすので、ふつつかなと叱ると召使は云っている。みみちっい旦那だよ。

灸を1つ2つ落したところで、さほど言われることはないじゃないか。

巻之六十九 九 落とし噺

世にいう落とし噺とは作り事だ。

それでも時として真実を突くことがある。

近くを仕切る吉原町の娼の者がいた。

妾が前に郭中の家に棲んでいた頃、めし使っていた禿童がいた。

また妾にはお客の某から贈られた蓋物(磁器)があった。

妾はことさらにそれを大切にしていた。

それなのにある日の事見当たらない。

禿に云って探すが出て来ない。

妾は禿はどこかへやったのを忘れたのだろうと疑っている。

それで禿を責め立てた。

お前はどこかに置いたのだね、と。

禿は幼いが、納得ならない。

ある日妾が(建物の)上から下を見ていると、禿がいて、貧しい身なりの辻占いをする僧に占いを請うている。

僧曰く。何を占うのか。

待ち人か病人か、それを云ってくれないと応えられないんだよ。

禿云う。どうして何を占ってと云わなきゃなんないの。

だったら別にお坊さんに聞かなくてもいいや。

(僧が)ならばもしかしたら、失せ物の事かと云うので、禿云う。

いいよ、いいよ。失せ物じゃないけど蓋物なんだもの。

妾、このやり取りを聞いて抱腹した。

巻之四 一一 農夫八弥、瘤とり

肥前の彼杵郡佐世保に八弥という農夫がおった。
八弥の左の胸にはみかんの大きさの瘤があったと。
夏になると、名切の谷のお堂に仲間が集まって暑い夏を涼んでいた。
お堂には観音様が座っておられた。
八弥は夕方早く来てみんなを待っとった。
そのうち眠うなってうつらうつらなってしまった。
しばらくして観音様は立ち姿で、八弥をジッと見つめていた。
そして八弥の前に進み出て、
「お前の瘤を取ってやろう」と云って、八弥の手を取って、胸の瘤を引っ張った。
八弥はあまりの痛みに気を失った。
八弥は、「あ、こいは夢やったとばい」と思った。
が胸を触ったら瘤はなかった。
人々は不思議だと云った。
「八弥は観音様ば信じとったか?」。
「うんにゃ、瘤ば取ってと頼みもしとらんぞ」。
この不思議をみんな信じられんかったと。
昔、鬼に瘤を取られたという寓話はあっても八弥はそう言えんたいなあ。

巻之十 三〇 ウサギの害と立て札

平戸領内で小麦畑にウサギが入り実を食う被害があった。
農夫はこれを避けるため、小さなまじないの木札を畑の辺に立てた。
その札には「ウサギが(畑にやって来て)小麦を食っているぞ」とキツネが(台詞を)云っている。
はたしてウサギは畑に入ることがなくなった。
つまり(ウサギはこのキツネの台詞札を見て)、「わしたちウサギは小麦を害してなんかいないのに、わしたちが悪いことをしているとキツネが云ってる。
でもなー、キツネを怒らせて良いことないもんなー」。
だからウサギは畑に入らなくなったんだよと農夫達はいい合っている。
可笑しなことだが、この札を立てると、ウサギの難が止むから不思議なんだよなー。

続編 巻之17 〔1〕 百夜通い

一男子が一女子に恋をした。
女が云うには、「百夜通っておくれよ。そうしたらお前さまのものになろうでないかい」。
男は易き事よと、翌朝より風雨も厭わず女の元へ通い、庭木に印して帰った。
こうして早九十余日を過ぎた。
そうして、大風雨の夜、その人はまた蓑笠を傾けてやって来た。
女は遂に男に話しかけた。「もう百夜でなくていい!泊まってお行きなさいよ!」。
すると男は怒って云った。
「あっしは、雇われてやってるだけでやんす。この風雨の中、早く帰りたいのに、何で泊まって行かなきゃいけないんすか!」。

巻之六十ニ 一七 昔流行した謎解き

ここ八九年前に街中で大いに流行ったが後はやんでしまった。
むしろ又流行ることがあればと、記しておきたい。
きせる(たばこ入れ)とかけて独り呑みの酒ととく
   その意はついだり のんだり
火のないこたつとかけて片輪な娘と解く
    その意は手の出し手がない
しゅろぼうき(みごぼうき)とかけて大食傷と解く
     その意は立ってはく すわってはく
比丘尼にかんざしとかけて独り呑みの酒と解く
      その意はさす所がない
奥方とおわしたの戦いとかけて、なぞなぞなあにと解く
     その意は菜切り包丁と長刀

巻之十七 一 世俗の落咄

わしの若い頃、世俗の落咄は特に短いものが好まれた。
今は冗長になっている。
是非世の習いの一変を見るはずだ。
だから記憶しているものを挙げておこう。
一、 雷風が日月と一緒に旅に出て、共に宿に入った。
翌朝、雷風は未明に起きて、日月が居ないと尋ねた。
女中曰く。「日さん月さんはとっくに払いをすませ、暁に出ましたよ」。
雷風感心して曰く。
「はて月日の立つのは早きものじゃ」。

続 巻之十七 一 ケチな野郎

ある人が、出口の戸が離れて閉めようと金槌を隣人に借りようとしたが、貸してくれなかった。
その人は怒り、「なんだい、なんだい、ケチな野郎だな。
仕方ねえな。オレのを使うか!」。

続 巻之十七 一 鶴は霊鳥。雄がツウとな鳴けば雌はルウと鳴く

ある人が云う。
鶴は霊鳥である。
飛んで鳴く時に、雄がツウとな鳴けば雌はルウと鳴いて、雌雄は相応じ、自らその名を唱えると。
座客はこれを聞いて、ある所に出かけ、語った。
「鶴は霊鳥である」。雌雄が連なり飛ぶ時、雄がツルウと鳴くと。
聞き手が問う。「では雌は何と鳴くや?」。
語り手は驚き、やや間があって云った。「雌は何も言わずだった」。

続 巻之十七 一 蚊帳に親父入り

ある人が子どもに何事も「粗略にしてはいけないよ」と云った。
例えば、「箱にものを納めたら、吸物椀、膳と書付をするんだよ」。
「袋に入れるものにもそれぞれ何か入っているとお書きよ」、と諄々といいつけた。
その夜、親が蚊帳を吊ったところ、翌朝起きてみれば、子の筆にて「この中、親父入り」と書いてあったとさ。

巻之四十七 一 正月にある士が礼服

正月にある士が礼服を着て(蓋腰明の熨斗目裃)某所に行く。
路のみだらな客にからまれ、北里に誘おうとする。
士は断るが通じない。
ついに花街に至り、茶亭に入った。
階上では灯りが並び、杯盤が並んでいる。
士は、左右を見て曰く。
「恥ずべし!このような服を着てこんな所に至るとは。されどもこの界隈にも、この服の価値を知る者はいるだろう」。
雛妓(しんぞう)が座っていた。「妾という卑な者でも何なのか分かるだろう。願わくは聞かせてもらおうじゃないか」と士が言った。
雛妓が言った。「お前さんの来ているものは紙子(みすぼらしくて惨めな境遇の形容)だよ」。

巻之五十六 〈八〉 ある医師の話し(笑い話)

ある人が語った。
木挽町界隈に住む一候家の医師は相応に流行るが、人となりはおしゃべりで軽脱の資質である。
ある日、病人の家に招かれ往診したが、病は甚だ重いから、薬剤を断り、その上とても起き上がれないから、早く遺体を安置する棺を用意した方がよいと言って帰った。
それでも他の医師の治療で全快した。
その翌春の元旦早朝に新しい棺を掲げて、例の医師の玄関へ据えた。
付添の者は、取り次ぎの人を呼び出し、「去年の御診察のとき、用意すべしと教わり、この棺を造らせましたが、ところが測らずも、病は快復して、この棺は今は不要になってしまいました。
ですので進呈いたしまする」と言い捨て、その人らは去った。
元朝のことなので、医家も殊の外気に掛かったのだという。
珍しくも一笑い話である。

続 巻之十七 一 山海珍味を陳列した饗宴と風雅で趣き

林氏曰く。
食前方丈の山海珍味を陳列した饗宴は世の中の常である。
いつもうるさく思うばかりで、少しも心に留まることがなく、その日限りの記憶に残らないものとなる。
ただし風雅で趣きがあり、人の気持ちの入ったものは月日が経っても忘れる事なく、時に触れては思い出すものである。
一年の夏、楽翁から、園中の蓮の花の鑑賞として、詰旦に朝食を食べないでお出で下さいとの招きで、その通り守って行った。
池に舟を浮かべて、松陰に漕ぎ寄せて朝餉を出された。
それはわずか三種の菜品の中に、魚肉や小海老等を寒天で煮こごりに料理したものを皿に盛った物は、避暑の場にあって特に愛でた。
主賓共に食事を終えると、朝の光が少しばかり横よりさし入ってくれば、舟を一つの丘の辺りに漕ぎよせる。
丘の上の小さな亭で、丘の下の蓮の花を眺める。
ちょうど、数本の白柄の蓮花を見る中に蕾がほころび開き、朝風の涼しさに芳しく香り花々が打つばかりに成るのは、得も言われぬ風情である。
そこは、茶菓子と共に軽い話をして、帰った。

またある秋のこと。
一諸侯と共に招かれて、各所の茶屋で普通の饗宴があった。
夕日の頃、船に乗ろうとの事で池畔に至ると、紅葉の折枝を船屋に多く挿していた。
船中には紅葉に韻字で書き分けて詩を望まれた。
さて酒が出されると、肴として小皿に匙の量の味噌があるばかりである。
鎌倉の故事を船中にて、事少なに取り合わすところが誠に感じ入ったことよ。
日が落ちて船から上がると、千秋館に燈火を列ねて晩御飯を頂いた。
事の次第と豊なふるまいの模様は如何にも面白い事となった。
また黒羽候の箕輪の別荘に招かれた時に、諸物を欠いたやり方でもてなされたが、靭(うつぼ)の蓋を仰いで、吸物椀と盃を載せて出された事も最、興があった。
かかる類いは今久しくなるが、心に忘れられず思い出すことである事よ。


続 巻之十七 〈一〉 王子の稲荷の狐(お話し)

ある士が、王子の稲荷に参詣に出かけた。
山中に至ると、穴の中に狐が伏せて寝ている。
士が呼ぶ「権助、権助」。
狐は驚いて目を覚まし、思う。
「お侍さんは、オイラの事を権助と見るらめ」。
化けはしなかった。狐のまま穴を出た。
士もまた知らん顔をして率いてゆく。
帰り道、山下の海老屋に入った。
(狐は)下僕になり酒肴を注文した。酒の席にズラーと並べられた。
酒もたけなわになったところで、士は厠に行き、そこを去った。
下僕狐は残された。
家人が怪しみ、聞いた「酒肴のお代は?払ってくれるよな?」。
下僕は「お、おいら、わかんないや!」と云った。
主人は怒り、その狐を嘲った。
下僕ははじめて悟り、すぐさま走って山に入った。
満店はあっけに取られてしまった。
士は戻って窺い見た。
店には入らずに、餅の店に行き、饅頭を買って、再び狐穴に行った。
小狐がいて臥せっていた。
士は狐を呼んだ。
小狐はまた驚いて起き上がった。
士が云った。「おまえ、驚くなよ。饅頭をやるから」。
小狐は喜んだ!喜んだ!
それから牝狐の所に行き、このことを告げた。
牝狐が云った。
「食べないの。おそらくは馬糞だからね」。

続 巻之十七 〈一〉 籠かきと乗り手(笑い話)

籠かきが乗り手をゆすった。
何遍話しかけても客は答えなかった。
それで、窓から覗い見ると乗り手は甘(うま)く眠り、鼾は雷の様である。
籠かきは、為ん方なく数町かき行った。
乗り手は気持ちよく思っていたが、やがて籠が進まなくなった。
乗り手は不審に思い窓から顔を出して見た。
あら、籠かきは立ち眠りして、鼾は雷の様だった。

続 巻之十七 〈一〉 うぬぼれ者

嫖客でうぬぼれ者がいた。
自ら好男子に比して誇る。
ある日髪結所に入って眉を剃らせた。
その頃、美しきは細眉であり、「細く細く」と云った。
髪結は細くしようとしていたが、思わず剃り落としてしまった。
そばで一部始終を見ていた者が云った。
「なりだの〜♡、なりだの〜♡」。
〈なりとは貌のこと。その頃、嫖客の褒め言葉に容貌の好美者をなりと云ってほめていた〉。

㊟静山さまは、甲子夜話で♡を使用されていません。
嫖は片眉を剃り落としたのを知らず、自得の体で平り平りと奈何々々〜

〈なり→貌→業と通じる江戸の言葉〉

続 巻之十七 〈一〉 徘徊する犬の話し(笑い話)

都は人家が並んでいて、犬もまた多い。
夜もたけなわになると人通りは絶えて、犬が徘徊している。
独り歩きの者に犬どもが吠えかかり、行くことが難しくなる。
ある人曰く。これは戦国時に敵地に入るのと同じだ。
行くのを遂げようとすると遂には襲われ怪我をしてしまう。
そばの人それを聞いて曰く。
「あっしに考えがありやす。犬に囲まれたら、先ず四つん這いになって獣と同じになるんすよ。それから犬吠えをして闘うんでやす。そうしたら犬の野郎、怖れて逃げるでやす」。
その人、納得して、ある夜はたして犬ども四頭に囲まれた。
その人はすぐ四つん這いになって犬に向かって吠えた。
ところが犬どもは逃げぬ。
一匹が、後ろへ回りその人の臀部を噛んだ。驚いたのなんの!
「キャンキャン!」

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百合の若

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