2020/05/19
続 巻之十七 〈一〉 笛屋の新見世(世俗の落咄)
わしが12、3の頃、湯島の女坂下に笛屋の新見世ができた。
キジ笛、ハト笛は云うに及ばず、カッコウ、ホオジロ、メジロの類、大小の鳥の声、虫はキリギリス、ヒグラシ、マツムシなど、その声音を笛に写せないことはない。
珍奇な仕事なり。
そのころ、ある者達が寄り合い、この笛屋の噺をして、見たか、見てないかなどと言っている。そのとき1人、早く知っている事を云おうと咳込んで、あの笛屋にないものはないとのこと。
花のウグイス、水のカエルはもちろん、ムカデ笛、ゲジ笛まであると。
辻番所に草木でかきを構えている。
往来の1少年が、その中に小便をしていた。
番人が見咎め叱りつけ、なんてことをするんだと云えば、少年は、ここに(他の人の)小便の跡があるじゃないかと云っている。
だから、ワシもここにしたんじゃと。
番人が云うには、それは前に1人小便をして、叱った跡なんじゃ、と。