2020/06/09
巻之四十ニ 一四 赤子の産み捨て
この夏の頃か。福井町大六天祠の側の米屋の裏に藁くずが多く捨ててある。
下男がその辺りを掃除した。用がありまた通ると散乱している。
不審に思い見ると赤子がいた。前はいなかったのにと合点がいかない。
するとそのかたわらの辻雪隠から、おかあ、出よう、出ようと云う声がする。
戸を開けると三歳ばかりの子を背負うた婦人がいた。
名と何処の者かと問えば応えぬ。赤子は己が捨てた、許して下さいと云って逃れようとする。
男は赤子はこの婦人が産したのだろうと見定めて、産婆を呼んで介抱させたり、駕籠に赤子と共にのせて送ったりしたという。
この婦人、三歳子を背負い、藁の中で子を産し、厠で産の後始末をしていたら、背の子が声を出すので人に知られたという。
婆の賀川が穏やかに語る。
これは下々のこと故、高貴の者には教えという程でもない。
が、わしはここに記しておきたい。