老女衆の願いを老職衆に回した上様
徳廟(今は亡き上様、どの御代かわからぬが)は御政務に御心を尽くされておられると聞く中にこの様な事があった。
大奥の老女の縁で入った人が上様に内願を申し上げた。
「善い様に聞くつもりだが、女の事だから時には迫って申し上げる時もあるだろう。
その時には、この様な我らの身分の者も自由にならぬ事もあるものだ。
老職の意見も聞かなければ」と上様は申される。
「さらば老職に聞かれてもかまいません」と申し上げる。
「少しもかわまないか」と上様が言われる。
そこでまた「もし老職共が異議を申しますならば、如何なさいますか」と申し上げている。
「その時は、老職に聞く」とのこと。
その後、老職が召出され、上様が「この度、老女どもが何々の事を内願いたした。
だから、この様に答えて置いた。けれども、件(くだん)の事はそうであってはならない。
その方ども、厳正に説得するのだ。承知はいたさぬ」と仰せである。
果たして老女衆から件の云々に及んだ時に、老職の答えは、「それはそうあってはならない」という。
老女衆が押し返して申すには「内々の言上に及びまして、上様にもその様なお考えであられましたら、老職へ聞きとうございます」と言っている。
老職衆が答えるには、「たとえ上様のお考えでなくとも、この事はそうであってはならない」と強いて申している。
とうとう老女衆も「それでは仕方がない。
またまたこの事を言い上ぐったりすると、老職が申す旨は重き事と言われる」と言われた。
遂にその事は蒸し返される事はなかった。
※老女達が上様に内願したかった事は何なんでしょうね。
そうしてまで、聞き入れたくない将軍と老職の考えは。。。