2022/03/01
巻之24 〔9〕 麻の芽を食して狂ったこと
ある日の坐話で聞いた。麻の初生の芽を食すると発狂すると云う。
先年谷中妙伝寺と云って早朝人が往くと住持、小僧、奴僕などがみな眠り込み熟睡していた。
またその様子を見ると仏壇の本尊から、器具、戸障子の類がことごとく打ち砕かれている。
その人は不審に思って、眠り込む者を揺らして起こすが目覚めない。
しきりに起こしてようやく目覚めた。
それでその人は次第を尋ねると、「さてさてよく寝たものよ。昨夜は面白かった」と云うので、「それは如何に」とまた尋ねた。
それで打ち砕かれた類を見て大いに驚いて、はじめて狂乱の所然を知ったと云う。
この様な毒は消せば回復するのだろうか。
このとき坐傍に人が云った。
「夏の日の麻の襦袢を着たものの、酒を飲んで汗が出ると、襦袢に酒気は強く移っていった。襦袢は酒気を吸い込むんだな」と。
すると麻の性質は酒を引き寄せるものなのか。
また1人の客が云った。
「麻毒による狂乱は酒を飲んだから発生するでのはありませんよ」。ならばまた酒は麻に克つと?
また『本草』の大麻の条に、附方(旧一)。
風が狂って百の病をおこす。
麻子(けしの実か)4升。水6升。猛る火で煮て、芽生を令し、滓(かす)を除き、煎じ取ること2升。
空心(穏やかな心か)にこれを服すれば、あるものは発し、あるものは発せず、あるものは多くしゃべる。
これを怪しむることなかれ。
但し人に手足をなでさする様に促す。
頃合いを視て、定めて三剤を進めて癒えていく。(千金)。
これらかの発狂によるものであろう。
またかの寺にて数人発狂したとき、12歳の子が両手に箸を持ち、面白いと云いながら狂いだした。
その次に住持が狂いだしたと云う。
年少者は腹中(心に浮かぶことが)そのまま出て狂った、和尚は多く食していたので狂ったのだろうか。