2020/10/01
続篇 巻之四十六 〈九〉 人の口は紛紛(土屋候の怪我)
当月初め上野詣での際、東漸院にして院代〈教観坊〉が語ったことには。去る朔日寺社奉行土屋候(土浦藩第九代藩主)が閣老青山野州の宅で、門に入ろうとして籠から出た。折しも両番の中か、これも門にて下馬して内に入いろういうとき、馬は後足をはねていた。折り悪く、土屋候は籠より出るときで、馬の足が候の面部に当たったのだ。甚だ苦痛であり、眼が開かない。鼻血が止まらない。
ようやく玄関に入られたが、折ふし同役の脇坂候が居合わせ、その計らいにより、裡(うら)もから帰られたとのこと。
この様なので、院主東漸院も坊中申し合わせて、その夕べに早速土屋候の邸へ見回(みまい)に参ったという。
わしは云った。却って俗家を知らない為に、さても不慮なることではないかと。
この後、和州(大和国)の方に行ったとき、このことを話題にした。元より不慮なることだが、某が幼子を治療する印牧元順が来るが、これは土屋候懇意の者から聞いたからこそ、さほどのことではなくなるのだ。
目の下に少し痣ができているが、もはや一両日には出勤されるだろうとのこと。
わしは思うのだ。世の中の取り沙汰は、針小棒大だ。このことにも当てはまるだろう。
それより十日経ちいよいよ出勤されたと聞く。またこの両番とか聞くは、石川左金吾と称する寄合衆〈三千石〉であると。その人も驚いて、日々候邸に見回に行ったということだ。
また取り沙汰には、土屋候はその日の供頭の役義を取り上げ、供の士も戸じめにして七日目に免罪したと。
これも主人(土屋候)の意思はそれほどでなくても、同役の中書はことを難しく書いてあるので、やむを得ずこれに付随われたもの。
人の口は紛紛(入り乱れるものよ)。
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コメント
No title
まるで手柄をたてたように(-_-;)
2021/01/08 16:25 by 和賀 URL 編集