三篇 巻之39 〔12〕 ある侯の妾が脇坂侯門に訴える

 また聞いた。この(戊戌、1838、天保9年か)正月2日の朝のことであるが、ある侯の妾であったという。
縮緬の衣服に侯の家紋を染めたのを着て、御城近くの閣老、脇坂侯の門に至って、訴えようとして入ろうとしていた。

 門吏はそれを留めて入れなかった。ほとんど喧嘩腰になった。
 その日は諸侯の賀正の時なので、門の辺りに屯(群れ集まって)する侯の従卒が群れ集まり、相視て安んじていた。
けれども争い罵りが止まない。

 遂に婦人の衣は破れ、かつ涕(なみだ)がこぼれた。
やや多くの者が見ていた。

 門向いの辻番人はこれを見て、門吏に言った。
閣老の門訴は前々より入ることはいつもの事である。
(がこの婦人を)如何にして止めるかと。

 門吏はなお入る事を免れ、これを内に通した。
それで取次ぎの者はその由を訊いた。
婦人はおそれず堂々としていた。

 その自筆された陳情は巻紙三帖に至った。
閣老はこれを聞いて婦人を主人である侯へ引き渡した。
そして自宅での吟味に成ったという。

 またこのような早朝如何にしてその邸を出たかというと、その日は正首(歳の初めの)賀正なので、邸中の警備のいつもに増して厳しくなるので、婦人は独り庭中の外堀を越えて行道に出て、独歩でぃて権門に至ったと。
その侯は浅草寺町に邸を構え、わしの上邸の近い処にある。
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