巻之59 〔21〕 死してこの世に思いを遺した後は

 幽霊と云う者は、全く虚言ではない。
わしの20歳になる侍妾が初夏の頃から病になり臥していたが月を越して危篤となった。
その母は憂て、宿下がりを請うたので、その願いのままに臥してはいたが家に帰した。
そうして空しくなった。
不憫に思ったわしは、有りし日々の事を側の者に常に語りかけていた。
両3日を経て、寝所に寝ようとする頃、その常々出入りする所から幻のようにその姿があった。
弓矢を立て置いた前に至りその姿は消えてしまった。
また仲冬の事である。
いつも親しく召し使っていた茶道の者が熱を患い死んでしまった。
これも不憫に思うままに、その17日に香火の料などを孤児に与えた。
その前日だったか募碣(ぼけつ、墓のしるしの石)の事などを左右(に侍る家来の者)に命じた。
また彼が企てて置いた園中の経営の半途になった事々をも程々に成就させmその志を成し遂げさせた。
その翌夜の晩、面座敷にて仮睡していたが、生前のようにその名を云って、某侯仕上げますと云うので、何意なく応えた。
‘この程庭造りの御事を夫々(それぞれ)に成し遂げて下され、悉く御礼申し上げます。
これにては病没しても恨む所ございません。
これよりは御寿命を祈り申し上げますと云った。

この時夢うつつだったかと心ついた。
これも我が心の為す所か。そもそも人魂は来るのだろうか。
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