巻之30 〔25〕 歌にも詠じ難き花の名

 西に帰国の際に木曽を経た。
かけはし(けわしい崖下に板などを渡して作った橋)の下は急流で、みなぎる水は白を曳いていた。
その流れに樵夫が「向うの山に渡る小舟があります。
その形はいかだのようにようやく1人2人しか乗せることはできません。
その乗り物の名はカラと申します」と云う。

 思うにカラは甲であろう。
木の実の甲、亀の甲、人の甲冑を(わしは甲を〇(兜の儿を取って金)とする。彼には甲は胴。冑を兜とする)などそれぞれのが思うブトの字を云う。

 この舟を甲と云うのも自ずから古い言い方と聞こえてくる。

 また寝覚めの里に至れば、その辺りはみな深い谷で、路は山の腹にある。

 山の形に合わせて曲がり曲がって上に下にと舟は往く。処々にかけはしの掛かる道がある。

 その岸に見慣れぬ大木に花が咲いているのが見えてきた。桃のように花弁が一重であった。
名を問えば『クソ桜』と答えた。

 古名は方言かいまだ聞き及んではいない。
若しくは訛言か。歌にも詠じがたい名である。
一笑。(『東上筆記』)。
関連記事
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

プロフィール

百合の若

Author:百合の若
FC2ブログへようこそ!

検索(全文検索)

記事に含まれる文字を検索します。

最新の記事(全記事表示付き)

訪問者数

(2020.11.25~)

ジャンルランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
890位
ジャンルランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
歴史
131位
サブジャンルランキングを見る>>

QRコード

QR