2022/02/09
巻之30 〔25〕 歌にも詠じ難き花の名
西に帰国の際に木曽を経た。かけはし(けわしい崖下に板などを渡して作った橋)の下は急流で、みなぎる水は白を曳いていた。
その流れに樵夫が「向うの山に渡る小舟があります。
その形はいかだのようにようやく1人2人しか乗せることはできません。
その乗り物の名はカラと申します」と云う。
思うにカラは甲であろう。
木の実の甲、亀の甲、人の甲冑を(わしは甲を〇(兜の儿を取って金)とする。彼には甲は胴。冑を兜とする)などそれぞれのが思うブトの字を云う。
この舟を甲と云うのも自ずから古い言い方と聞こえてくる。
また寝覚めの里に至れば、その辺りはみな深い谷で、路は山の腹にある。
山の形に合わせて曲がり曲がって上に下にと舟は往く。処々にかけはしの掛かる道がある。
その岸に見慣れぬ大木に花が咲いているのが見えてきた。桃のように花弁が一重であった。
名を問えば『クソ桜』と答えた。
古名は方言かいまだ聞き及んではいない。
若しくは訛言か。歌にも詠じがたい名である。
一笑。(『東上筆記』)。
- 関連記事
-
- 三篇 巻之77 〔17〕 今までに見ない蚊のはなし
- 巻之30 〔25〕 歌にも詠じ難き花の名
- 続篇 巻之63 〔12〕 花木を植えること
スポンサーサイト
コメント