巻之29 〔20〕 わが親友の器量の大きな述斎(林子)のこと

 述斎(林子の号)はわしの昔からの友で40年ばかり特に深いよしみの者である。
辛未(1811、文化7年か)、韓使が対州(対馬)に訪ねて来た。
それで上使並びに諸司とともに命を奉じて赴いた。
領内の壱州(壱岐)に泊り、風侯を待ちながら、渡海の期を評議した。
時に官船並びに対州、唐津、わしの領内の船頭、その議は均からず決がない。

 都下の人々は風浪を憚って話に加わらない。
述斎は独りごと。
韓使は既に先んじて対州に来ていた。
延滞すべからずと。
その船はまず鼓を撃って津を出発する。
諸船はそれを見て、遅れを取らじと蒼皇みな出た。
遂に対州に至る。

 その日は風順なりと云っても、大洋のならいで波は極めて高かった。
船は揺れて、困眩嘔噦する者が多かった。

 述斎は自若していて常の如し。
後におよんで、述子は先天的に船に酔わぬ体質かと問う者がいた。
述斎は笑って、「人の好き嫌いは誰も同じでございます。船の揺蕩を心地よいと思う者はおりませんよ。けれどもこのような時は大事の公務を腹に貯えれば、余程の事は胸中につかえることはございませんよ。だから如何なる風浪も平地のようだと思うのです。帰路に四国路の海で風に逢うときは何となく気宇あしく思いましたよ。これは公用が既に終わり、ただ無難に望郷の念の他はないので」と云ったと。

 実に真摯な云い方、彼らしく思う。

 また対州で聘礼(人を招くときの贈り物)が終わって、韓客がわが諸司を饗した。
かの国のならわしとして独参湯(どくじんとう)を薦めた。
諸氏は目送して、互いに薬気を畏れて飲まない。
述斎は独り盛儀を感謝して一盌を尽くした。
侍者はまた一盌を奉じた(薦めた)。
また尽くした。
尋で別に避暑の薬と云って、黒色の薬を薦めた。
即ち感謝して一盌を尽くしたと。

 述斎の洪量おおむねこんな感じである。
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