巻之29 〔10〕 塩吹き(ひょっとこ)の面をつけて・・・

 布衣(江戸期の武士の大紋に次ぐ4番目の礼服を着る御目見以上の身分の者)以上の御役人某が、御用のことがあって1日浅草の辺りへ行った帰りに、途中さまざまの子どもの玩具店の所を過ぎようとしていた。
ふとわが孫はわしの帰りをさぞ待っているだろうと思うと、駕籠脇の士に、「あの店にある仮面を1つ買ってきてほしい」と頼むと、その者は走っていってやがて塩吹き(ひょっとこ)の面を買い羽織のすそにおおって、そっと駕籠の中へ入れた。
某は「このままお孫さまに与えられたら、よいように被ることは出来ないでしょう」というので、駕籠の簾を下して、脇差小刀を抜いて懐中の鼻紙をとり出し、紙捻(こより)を作り、その面に捻の通る穴を穿ちて結び付けた。
そしてわが顔に押し当てて捻の長短をはかり、ちょうど髪の後ろに引き廻し試していたが、思わずこま結びになってしまった。

 その折に、向こうから1人の御役人が来て行違おうとしていて、双方の徒士(かち)は何の誰さまと呼び告げた。
(わしの)駕籠脇の者は何の心もなく互いに戸を一度に引いた。

 そのとき某はあわてて面を(わしの顔から)取ろうとするが、こま結びのひもはすぐに解けない。
仕方なくこの面を付けたまま、会釈した。

 これを見て、向こうの人もその供もこの面体に同音に笑った。

 後々までも宮中にてもこのことを話題にしたという。
このように可笑しなこともまたあるものだと話したのだという。
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