三篇 巻之38 〔2〕 名物『信実朝臣画師の雙紙』

 丁酉(1837年か)9月に京下りの摂家の(二条公、近衛公)の方々が、上野へ登り山があるのを見ようと、広小路の古筆了伴(こひつりょうはん、1790~1853、江戸後期の古筆鑑定家)が家に休んで云々する間、主人と話す中、耳目に留まったことをここに書き付けた。

 〇先年京都大地震のとき、亡父了意(古筆了意、1751~1834)は存命で在京していた。
折ふし客に対応していると、軒前の巨石の手水鉢に湛えた水がにいきなり1,2尺もあがったように見られた。
次いで地が揺らいで次第に大揺れとなった。
それから考えると水が昇ったと思えたが、地の下に陥っていったことだった。

 〇それから久々に会った。
書画等に珍しい物があるかと問うた。
すると一軸を携えてきて云った。
「これはもと角倉与一(1571~1632、朱印船貿易家の了以の長子。父の事業を助け、大堰川、富士川、天竜川の開削を補佐)の蔵していたものだが、故あって得たのですよ」。
よく見ると『信実朝臣画師の雙紙』と呼ぶ世の名物であった。
この軸は、書画ともにかの人の自筆で、世の画院雅家の多くがその模写を伝襲する。
つまりこれは基本書である。珍襲と云うも、また更に一層上のものである。
 わしもまた模写1本を蔵む。比すると正体は格別なるもの。
『好古子録』に云う。
『画師草子』(1巻、画信実)は、結構俗気なしである。
眼を悦ばそう。
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