続篇 巻之97 〔13〕 江戸に大風吹いて その顛末 その1

 当年は210日、20日も風変わりなく、雨気はあれど平和で人々は安んじている。
八朔(八月朔日を縮めて云う)の朝から小雨が降っている。
わしは遥拝(遥かに隔たった所から拝むこと)の日だから早くから浅草の邸に往った。
巳刻(現在の午前10時)ほど還る途中だったが、雨風を帯びて、興中身を濡らし従行者も濡れた。

 次いで帰宅の後、次第に風は盛んになった。
日午の頃(正午)ますます東方より吹き、過午(午後)より甚だしく猛烈に吹き荒れた。
所々一時に風損なう。

 それより風は幡然と和らぎ、見ていると穏やかになっていった。
がまた西風と変わり、梢々は烈しくなったが、これもその半刻で収まった。

 この日の荒れは、所々より知らせてくるが覚えることができない。
しばらく置いていた。
けれども心に残ったことをここに記す。

 大城中、紅葉山の立木の樅(もみ)は9尺余り囲っているのが吹き折れたと聞く。
 深川33間堂は、その半ばより潰れた。
 上総は殊に荒れた。竜巻が起こり、近くで見た者がいたと伝え聞いた。
 深川は津波になり出水高く、永代橋を陥損した。
 浅草寺境内の蕎麦店、茶肆(みせ)等多く潰れた。
 田原町大聖寺門前の大和屋と呼ぶ餅屋のやねをことごとく吹きとった。
空中の飄(つむじかぜ)が揚がったのを人は仰ぎ見た。
天上では火が出て燃えているのを、竜火だとうかと人は云っていたと(これは神事舞大夫田村の子浅之助が目撃した)。

 ある人がまた云った。
近在のことだが、大木と思える物が、根は勿論枝葉も付けて、全体が飛んで行ったと。
何れの里に墜ちたろうか。

 仙台侯の上屋舗では、馬舎(うまや)を新たに建てて7間余りなのをかの大風に吹き倒された。
馬3疋は圧死した。
4疋は足を折って伏した上に、屋根が潰れ掩(おお)うものなく恙(つつが)なし。
却って古き廏(うまや)もその側のものがなくなって、これは障りなしと、近くに住む観世新九郎が語った。
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