続篇 巻之97 〔13〕 江戸に大風吹いて その顛末 その2

また聞いた。
わが荘の川向竹町の者が大風の中、外に出ようとした。
が家族は道の難を恐れ、強いて止めたが本人は聞き入れなかった。
行く先の家の屋根上の物干しをも吹き飛ばしてその櫓に打たれ即死した。
また1人はこれも近所埋め堀の辺りに人だが、用事があって外出した途中、いそぎ帰る間に、その辺りにある火見櫓が風に倒され、その人の行路に転がり落ちた。
人は驚き放心してしまった。
その場にいた人が為方なく、駕籠に乗せ自宅まで送ったという。

また上総では洪水があって船舶は破損おびただしい中、大きな商船は田地に打ち上げられた。
ちなみにもとのように海に浮かべようとすると、田畠を破損することが多く、50余金を与えると、船を移すことができないと云って、船商ははなはだ困っていると。

この日は都下所々から出る釣り船なども破損し(人は)溺死した。
舟人とも行方不明も少なくない。
その中品川沖に出た釣り舟はこれも例の釣り舟と違って、平太舟に数人乗り組んで出たが、かの暴風に遭い、後は舟は覆ろうとしたと1人が云った。
もはやみな溺死するしかない。
われにはかりごとがある。
これに従えと云うたと。
人はみなお前には従わんと云うたと。
するとその人、ならばこうせよと。
とても免れる術はなし、みなみな海に飛び込んで、舷(ふなばた)にとりつき、またこの葭(あし)の茂ったものを片手に握って難苦して凌いだ。
波濤は弄騰し頭を越えること数回あったが、葭に取りつき、手舟を放さないのでそこを去らず、このようにして遂に風の過ぎるまで待つことができた。
元のように地潟を漂って遂にはみな命を取り留めた。

  また舟に取りつき海の中にいるとき、大きな本船の破網が切れて、あふれて波の為に水尾木に触り、忽ち破裂したのを目近に見て、甚だしい恐怖が襲ったと。

  この話については記した臣は云う。
『淮南子』に善く游(あそぶの意味)者は溺れると見えるのは、実に然ることと思い当たる。
長崎で蘭船が在留する間、奉行所の番船が、御船蔵の者は小船に乗り組む。
蘭船の傍にいて、昼夜去ることはない。
あるとき夜中にわかに大風が起こり、大きな波濤が舟を覆した、1人の船頭は常々泳ぎをよくする為に、即ち海に飛び込み泳ぎ去ろうとしたが、舟に胸が当たって死没した。
1人は泳げなかった。
それで舟が覆るに及び胴木にしがみついた。
既に舟は覆るといっても手を放さなければ身体は水中にあるが、首は水から出て沈没することはなかった。
こうする中、救舟が出て、助けられて溺れることはなかった。

  この余りを記す遑(いとま)がないので、ここで筆を止む。
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