三篇 巻之65 〔1〕 計り知れないまこと

 三月十五日の沙汰書に、松平和泉守を召され、御座の間で御目見えがあった。
  父和泉守、重き御役をも相勤め候に付き、仕置き等、万事心得候様出づる仰せ被る。
 ある人が聞いた。
「帝鑑衆のこの通りの御座の間で拝謁のこと、如何でしょうか」。
 答える。
「これまで老中の子息は、父が京都に往くとき、召し出される上意はあるものです」。
だが(父の)没後にこのようなことがあるのはあってはならないものだ。
またある人が云うには、前にもあらましを云うが如く、間候は特進する、それで遠方より御郭内へ入られ、織侯は不首尾に終わり、浅草から三田へ移された。
それで泉州は、久しく住み馴れた御郭内を出て、浅草の邸に赴いた。
この浅草の邸と云うのは、織侯の祖父山州と云うが、四位(しい、日本の位階及び神階における位の1つ。
三位の下、五位の上に位する)を望むとのこと、貧迫となって、居所から臣舎まで弊損の体になっていた。
間侯の三田の邸より、この浅草を当泉は望んで往ったが、到ってみるとこの様なことゆえ、またまた官権に便りを出し、内意を嘆いた。それが官上に聞こえたと噂になってしまった。
わしは(どういうことか)思いめぐらしたが、この度の御ことは、当代の泉州が(父からの時代のつき合いの)御懇意というものを知らなかったこと。
世にいう有難迷惑であったとのこと。
そのまことというものは実に計り知れないものである。
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