三篇 巻之65 〔2〕 上には上のかたりに出会った運なし駕かき

 (わしの)左右に侍る人が記した話をここに書いておこうと思う。
 近頃の話だが、何処の国か知れない者が二人連れで江戸へと板橋迄来た。
ところが一人は病で思うように歩くことが出来ない。
それで連れの者が駕を頼み、病人を乗せて、駕かきに云った。
「おれたちゃ神田須田町に往く途中でな、賃金は後で江戸で渡すからよ。今生憎手持ちのもんがないからなあ」。
 路の途中では、駕かき達は、酒代を欲しがった。
連れの男は、「今懐が淋しくってな。酒代も後で渡すから、代わりに出しててくれよ。江戸に着いたら必ず返すからよ」。
 駕かきどもは自腹で飲み食いをした。
ところが柳原に着くころに連れは「用事が出来たから、ちょいと待っててくれ」と出かけていった。
 ところが待てど暮らせど、男は戻ってこない。
とうとう駕かきどもは腹を立てて、病人を「やい、どうしてくれる」と責めた。
 病人は「あの男はただ途中で知り合っただけでどこの誰か知らないのだ」と云った。
駕かきはこれを聞いて、ますます腹を立てた。
この腹立ちの持って行き場がなく、病人の衣を剥ぎ、菰(こも)を着せて立ち去った。
流石のかたり者と世に知れる駕かきも、その上を行くかたりに遭ったということ。
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