続篇  巻之64  〔9〕 盂歌(ぼんうた)  その1

 この7月、世の魂祭と云う時、わしも月下に心を澄ませに邸の外で女児の歌謡するのを聞いて、わしの若かりし頃、久昌夫人(静山公の御祖母様)の語られたことが心に浮かんだので書き記そうか。

 この女児が歌う事は、世に盂歌(ぼんうた)と呼んでこの時に至るとこのような歌謡あった。
みな行歌である。
然るにわしの少年の頃と思い比べると今はやや稀になって、この頃はただその時を違わないようにしているのみ。

 右(上)によって先ず行歌を挙げよう。
されどもこの歌詞を観ると。
昔に非ず者であるか(この御記事は、甚だ面白い事でございます。
懐古を撫でると今の情からは離れた感念が甚だしく、御文詞は例よりもよろしくととのい申し上ぐるべしとおありでない)。

   盂歌(注・本文ママ)
 〇盂々盂は今日明日ばかり、あしたはよめのしほれ草、しほれ草。
  しほれた草をやぐらにあげて、下からみれなぼけの花、ぼけの花
 〇むかふに見えるは躍り子じやなひか。
  躍りがあらばせり合(アヒ)もふそ。
  せり合はりやひまければはぢよ。
  いしでもなげてけがでもすれば、てんでの親のめいわくよ、めいわくよ
〇むかうのお山のすもとり草よ。
  ゑんやらやつとひけばおてはきれる。
  おてのきれたにやお薬りやなひか。
  石々菖蒲大(ヲ)わう根が薬。夫より外にや薬なし、薬なし。
〇むこうのお山に何やらひかる。
  月か星か夜ばいぼしか。
  月でもなひが星でもなひが、しうとめごぜの眼が光る、眼が光る
 右(上)4歌は、わしの邸内に住む角力玉垣の母の臆する所。この婦人は年62。

〇今日此夜御(コンニチコンバンゴ)大儀でござる。
  お宿へ帰つてお休まれ、お休まれ。
  お宿はどこよ、お宿はどこよ。
  一の丸越て、二の丸越て、三の丸さきに堀井ほつて、
  井どは堀井ど釣辺は金(コガネ)、釣辺の竿は大和竹。
  大和の竹に蜻蛉がとまつた。
  やれ飛べ蜻蛉、それ飛べ蜻蛉。
  飛ずば蜘が網(す)をかける、網をかける
〇両国橋や長い、長い。夫より長いはすいぎよう橋よ。
  すいぎよう橋へお船がついて、お船の中に誰々御坐る。
  右近様や左近様や、お中にこざる紅葉様、紅葉様。
  紅葉女郎はきりよふよき女郎。
  きりよふよき女郎に髪ゆて進上、嶋田がよひかから子がよひか、
  嶋田もいやよから子もいやよ、御城ではやるおさげ髪、おさげ髪。
  さげた髪へちどりを付けて、あちらむけ千鳥、こちらむけ千鳥。
  あら面白や花千鳥、花千鳥。
〇今年の盂は目でたい盂よ。
  稲に穂が咲穂に穂がさいて、俄に庫(くら)が15建つ、15建つ。
  15の庫に三女郎さま(サンジョロン)をなご。
  見よたが女子、見よたが女子。
  見よはぬとてもゑんじやもの、ゑんじやもの。
 右(上)3歌は、また邸内の医者の76になる老婦が云う。

続く
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