三編 巻之ニ十七 〈五〉 片桐家紋、豊閤紋服の紋

わしが若冠の時、木下肥後守〈利忠退老して号長及ぶ〉は叔母の夫として、しばしば頼り登宮の助けをも為された。
この木下の知己で、片桐石見守〈貞芳〉をも時として頼んだ。
石州は、四十余り五十にも及ばない人で、わしが邸に来ても天祥院殿とは、先祖も他ならぬ因縁もある等語られた。
この人ある時、着服の紋所に丸さニ寸位の中に、鳶の翼を張って立っている形があった。
傍の客に語るには、これは家に結所ある紋所で、時としては着物中に紋に用いることがあると語っている。
先年の久しい様を思い返していると、近頃一斎〈佐藤捨蔵〉と談笑することがあって隠荘に招いて、かの紋服を着てやって来た。
打ち解けて語る内に自ら云った。
今の片桐候の〈この片桐候は、名を貞信、石州貞芳の孫で文学あり。
一斎の門人〉賜である。
この祖先に豊太閤から下されたもので、豊閤紋服が伝わっているとのこと。
わしはこれに於いて、初めてその由緒を知った。
一斎はまた云った。
「ひそかに思うのだが、この円形は日輪の象(カタチ)で、日光が及ぶ所の表である。
鳶は我であり、鳥は取るなればこそ、天下はみな我が執(トル)ところと謂う表章である」。
わしはこれを聞いて、その言った事を信念にした。

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