続篇   巻之41  〔3〕 医師多紀安長

 梅塢は話した。
 多紀安長(元簡もとやす、1755~1810、江戸後期の医師)が済寿館の総宰の時、東京肉桂(シナモン)の舶来が少なく、価格もまた騰がった。
館は都下窮民の治療を仰せ付けられているので、かの局定額の御入用に限りがあって、俗事役大野某は、舶桂に倭根皮を半分加えて、薬料にあてた。

安長はこれを聞いて怒って曰く。
「既に上命あるのは官の御薬種のみ。民を救う御盛意は格別である。邑人は根皮の桂でも治療すべきだろうが、御盛旨に背くことはあってはならない。私財で高価な唐桂を買うから、根皮は入るぬように」。 

またわしはかつて聞いたのは、安長の塾の中に諸方の医生が来ていて、師の手が及ばないので代診として遣わした。
一門医が帰ってきて、安長にその病状を告げ処方を伝えた。
高価な薬品を代薬するように言った。
長曰く。
「医は治療を専とするのだ。なんぞ薬価の卑高を論ずるな」と。
みな長の私財を以てした。
言った者大いに恥ずかしいと云ったと。

関連記事
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

プロフィール

百合の若

Author:百合の若
FC2ブログへようこそ!

検索(全文検索)

記事に含まれる文字を検索します。

最新の記事(全記事表示付き)

訪問者数

(2020.11.25~)

ジャンルランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
1328位
ジャンルランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
歴史
181位
サブジャンルランキングを見る>>

QRコード

QR