2022/08/03
巻之7 〔20〕 無粋は一事が万事
わしは嘗て勤め仕えていたとき、姫路侯邸の明楽を観に往き、そこに多くの坐客がいた。その中に今の福山侯もまだ世継ぎの君であられた。
亡き友市橋氏も大番頭であられた。
この外の方々は忘れた。
みな時の文才の人であった。
その上客は葵章の貴族であられたが、席上に楽舞番づけのあったのを見られ、「玉胡蝶とは『たまこてふ』~たまこちょうなるや」とわしに問われた。
わしは即坐に「然り」と答えた。
余りに文盲であって、音と訓の差別も無いかと思った次第。
これよりこの侯をひそかに目にしては「たまこてふ」呼んだ。
ある人曰く。
「この侯はある日、中屋敷に行かれる途中、籃輿(らんよ、簡単な竹作りの駕籠)中の烟架を花やかに飾りたてて喫烟させるのを、行く人の中からずかずかと輿窓へ己の烟管を入れて、火を借りたし」と云われた。
輿の辺りでは多くの従者もあり、如何して(この侯の動きを)留める事もされなかったと。
定めて風狂人であろうが、その人がその人ならば、このような珍事もあるかと思われる。
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