続篇  巻之97   〔12〕 御番衆と芸妓の闘拳、訴え出た事のあらまし

 近頃中野石翁が別業を寺嶋寺の堤下(ドテシタ)に構えた。
堤から1町にも満たない所にいる。
それで旗下の雲路を営求(捜し訪問する)する輩は翁の物色を憚って、堤下を行く者が少し。
思うに遊楽に耽るという体面を得ようと慮っている。
故に路を廻り秋葉寺の辺りを経て歓楽している。

 ある日水馬の試(騎手が馬で水流を泳ぎ渡るわざ)より、御番衆5,6人とその辺りの大黒屋七五郎の饌店に入り、芸妓と闘拳をした。
妓は技に熟達していたので衣類佩物(身につけた物)を賭けて争ったが勝つことが出来なかった。
みな妓に与え裸体になった。

 御晩秋は憤って「次の拳は淫事を賭ける」と云った。
妓はこれを認めた。
次の拳は妓が負けた。
番衆は喜び小躍りをして、妓の衣服を解き勢いに任せたが、妓は近隣の農家に逃げた。
番衆たちは酔いが醒め、酒肴の料金を払い帰宅した。

 妓を養う主人が市尹(界隈の長の意)榊原氏に訴え出た。
榊原は妓主に云った。
「汝ら輩は卑しいものである。相手はみな旗下(はたもと)の人である。
対偶を以て論することではない。
若し衣服を盗み取るの類ならば、身高しと云えども、その罪を免れるものではない。
ただの酒による酔狂であらば、罪は重しとはならず。
つまり汝ら輩が、みだりに旗下の御人を罪に落とすならば、人に非ず。
その関係者に話が及び、その末には御上に逮ぶ。
またこれは賤を以て貴を害すこと。
ことは逆である。
己を枉(ま)げて上を憚り、勉めて穏便にすべし。
奈(いか)ん、奈(いか)ん」。

 訴人も理に伏し、内々に済ませた、と。
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