続篇  巻之29  〔9〕 遠山左衛門尉隠居

 蕉叟が話した。
 勘定奉行を勤めた遠山左衛門尉景普は、70をはるかに越した人だが、病を以て致仕(官職を辞して隠居すること)した。
飄然(ひょうぜん、のんきでいるさま)として処々を往来している。
年来繫盛忙で疎濶(距離ができること)になって親朋知音等を訪ね、日頃我が宅にも両度(2度)まで到った。
今の熱閙(ねっとう、非常に騒がしい)世界にこのように怗退(てんたい、名誉や利益にこだわらず他人と争わないこと)な人もまた稀なことである。
嗚呼士に至るまで棲々とする俗吏に較べれば、如何ばかりの高下だろうか。
その詩に曰く。

   隠居達志
却して朝衫(朝衣)を脱ぎ身世軽し。
柴門草閣は逢迎少しく。
鳴琴一曲す長の松の下。
自得す古人風月の情け。

 蕉また曰く。
この人赤羽の余流を酌で、未だ乳臭黄吻に近い詩であるけれども、その志の於いて採る当(べ)しと。
この語を聞くと、遠普も晩年不遇になると感じられる。
蕉翁のこれを賞するのもまた等しく。
こう云うわしは、尚自ら棄てた者である。
南無阿弥陀仏。
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