巻之八十 ニ四 漁の器具で「もり」のこと

先年わしは望んで、伊庭軍兵衛に剣術を習った。
同門に林田長次郎がいてよく話をした。
その父は御勘定役でかつて、佐州(佐渡)在勤の時に奇異の物を得たと話す。
ある時、死んだ鯨が波打ち際に漂い、潮が引いて留まったのを農民、漁師が大勢出て、その肉を割り取っている。
背中に槍の刃の様な剣の様な長さニ尺ばかりの物が刺さっていた。
その茎には土肥組の三字が刻まれていた。
思うに違う地域の剣か?その事はつまびらかにしなかった。
父は数金に換えたいと云い、佐渡の官庫に納めた。
今もまだあると云う。
わしはこれを聞いて笑い、これはわしの領する壱岐鯨が漂着した物で、土肥組は壱州(壱岐)の魚頭・土肥市兵衛の目印だと。
この様な数柄を持って鯨を突く。
漁の器具で「もり」と云うと云った。
林田は大いに敬服した。
わが国(平戸藩)から三百里も隔てれば、その事には我関せずである。
いわんや、千百里離れた所にある器を好いて珍重するのは、溺器(尿器)を以て茗壺(中国の茶器)と例える様なものである。
「余録」より。
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