巻之29  〔16〕 専阿弥形の煙袋

 前の封筒のことに続き思い出すことを書き付けよう。
 先年専阿弥形と云う煙袋がことに流行した〔この煙袋の形は、底を広くいれ、袋の四方の角をおとし、亀甲形のような製品である〕。
またこの専阿弥と云うのは、平井専阿弥といって、天明(1781~1789)の末より寛政(1789~1801)にかけて時めきのあった御同朋の頭である。
その子を友阿弥と云って、わしも度々物語をした相手である。
父が没して職を継ぎ、名も父の名をあらためた。
これも寛政の末から享和(1801~1804)文化のはじめまで用いられたものであった。

 さてその煙袋はわしの18、9ばかりのとき思いがけず買ったが、その形と同じものを見て、便利な品と思った。
そして普段使いにその形で造らせ、他に行くときも懐に入れた。
1年子の方の専阿弥がわしのこの品を再現したが、他に流伝の品があったのだ。

 彼も同じものを持っていたが、やがて蹁蝠(フクロウ)と壽字をあからさまではないが、染木綿に多く製造した。
常々交流する者にひたすら贈った。

 それからというものこの製品は世でよく見られるようになり、わしがはじめに用いたと言う人もなかった。
専阿弥形と世に言いふらして広く行き渡った。
次いで専阿弥も病没して星霜(年月)が移ろい、今はこの形も廃され知る人も稀になった。
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