2022/12/09
巻之45 〔16〕 威権の輩の失態が露わになった騒動
この2月朔日晡時(ひぐれどき)すぎに神田橋御門外三川町1丁目より火が出た。小田原町の川岸迄延焼して、翌2日の明け方に至って鎮まった。
火が起こりは御門内と言いふらされていた。
その朔日の晩に、わしの(位の)中の士が鳥越邸より帰るとき大川橋を渡っていたら、都下の習いで行路の人が騒動して走っていた。
その中、橋北の別荘新築の主侯と見えたが、乗輿を陸尺(ろくしゃく)2人でかつぎ、駕脇には士が2人付き添い、その後から手廻り体の者が1人馳せ帰る様子であった。
それを引き続いて御用取次ぎ衆と見える人が追い老い2人、これも馳せ帰る体であった。
各それぞれの家紋のついた継肩衣で歩き、従士に、「出火は何れか、よもや御郭内にはかなろうな」などと云って走っていく。
とりどり体を失ったことどもである。
ある人が云うには、「当日はかの侯の新別荘で蹴鞠の宴があって、この人々は集会していた〔新荘に鞠場も構が作ってあった。壮麗であるが橋上よりよく見える〕」。
その昼、明暁院〔上野鐘楼の庵僧。蹴鞠をよくする〕と云う僧も相手に赴き、わしの隠荘中に来て、集会のことを語ったという。
一時威権赫々の輩が、衆目の視る所でこのような失体周章の振舞、さぞ気の毒に思う者をあっただろう。
あと愉快だと笑う人もいただろう。
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