三篇  巻之5   〔5〕 大久保八郎左衛門が檀寺再興のこと

 世の諺に九十大久保百酒井とか云うように、就中大久保氏の多い事はかの先祖の志とかだと。ある人がいった。
 先年のことだが、御使番〔七百石〕の大久保八郎左衛門と称する人は、奇才であったが、かの寺教学院が破壊したので、修復を檀家が請うた。
大家の面々は時節柄抔(など)と云って難しく、小家の衆中は猶更なので、和尚はこのことを八郎左衛門に語って、曰く。
「苦々しいことだ。これほどのことは我ら一人が少々ずつの寄進は往々やるべきだ。況や大家に頼もうと大家の邸に往って説したが、誰も肯かない」。

八郎左衛門曰く。
さらば素志(そし、平素からのこころざし)の如く我一人の力では助けるのは無理だが、各方から御支(つかえ)してもらえば」と云った。
それを聞いたその臣等みな思った。
「小禄の彼のこの大言なんぞ採るに足らず」と。
内々は嘲って支えぬ旨を答えた。

すると八郎また同氏の面々を残りなくふれ廻った。
檀家へ到って、雨戸を一枚かの門前に竪て、その戸に大書して曰く。
「当院は大破に及んだので、檀家同氏中へ修復申請した処、各勝手向うの訳を以て断るので、拙者一人に而再興仕えるものである。大久保八郎左衛門」
と記したら、同氏の中の者がこの大書したものをひそかに取り除いた。
が、またその大書を再び建てては取り除き、また建てては取り除きが続いた。

このため氏一統の者達は外見を憚り、かの氏一統が出金することと成って、遂に修復を終えたという。
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