巻之九 一四 角力の志し

壬午三月、葺屋町の劇場に角力人が入り見物していたが。
ところが何か口論になり、角力人達廿一人が劇場の人と喧嘩し、欄干を引き折り、散々に打ちまわるので、見物人は麻を乱す様に逃げ出し、またそのために怪我をする者が続出した。
調べによると、角力人六人が町奉行所に自ら名乗り出た。
その党類も皆牢に入り、程なくして裁許がすんだ。首謀者は百たたきの上江戸払い、十三人は五十叩きの上町払いと聞く。
角力どもが牢で話した事には、一般の人々が叩きを受ける時は苦痛のために泣き叫ぶと獄吏は、手心を加えてくれるらしいが、俺たちは力士である。
いかに鞭を蒙っても醜態を微塵も見せない様にしようではないか、と誓った。
打たれても、一人も号泣する者なく刑を受けた。
その中で、皮膚が裂け、血を流す者はいたけれども、約束を守り、力士の体面は保った。
流石、角力の志しは一般の人々とは違うと人はほめた。
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