巻之九 ニニ 横綱谷風

先年、谷風梶之助という大関がいた。
横綱を免されて、寛政の上覧試合にも出るような大変な力持ちの大男である。
ある時、何か弟子の事で立腹しその者を連れて、殺す!と怒っている。
楼上にいるが、多くの弟子がかわるがわる楼に出てきて詫びを云うが承知しない。
後は関わる者は誰にしても、殺す!といよいよ怒りが増して、寄付く者がいなくなる。
一人才覚のある弟子が、谷風の十七歳の妾に「あの様に怒られては何ともしがたい。
何とか機嫌を直して楼から下ろしてもらえないだろうか」と頼んだ。
妾は心得て楼に上がり、谷風の手を執り、「弟子達は一同にお詫びを申してますよ」と云った。
「下におりてくださいな」と手を引き云われると、谷風は「おう、おう」と応じながら下りた。
少女に牽かれて、その場を済ませたわけだが。
後で、弟子達は、この様な稀な角力の力持ちも、幼い婦人一人に敵対することが出来ぬものと、皆々、少女の才覚に伏した格好となった。
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