2023/02/01
巻之30 〔20〕 姫路城に出たヲサカベ
世に云う。姫路の城中にヲサカベと云う妖魅(ようみ、妖怪)があった。
城中に永年住んでいると云う。
またこうも云う。
天守櫓の上層に居て、常に人が出入りすることを嫌う。
年に一度、その城主だけがこの者に対面すると。他の者は怯(おそ)れて登らず。
城主が体面する時、妖魅の表すその形は老婆だと云う。
わしはかつて、雅楽頭忠以朝臣にこの事を問うた。
「成るほど世にはそのような者の話はあるけれども、天守の上別に替ることはありませんね。
よく上る者もいますよ。
そうではありますが、器物を置くには不便であるので、何もそこには置かないですよね。
ほとんどの人は行かない、行く人は稀ですよ。
上層には昔より日の丸の付いた胴丸(日本の鎧の形式の一つ)が壱つあります。
これのみしかありませんよ」と語られた。
その後己酉の東覲が姫路に一宿した時、宿主にまたこのことを問わせると、
「城中には左様なこともございますね。
ここではヲサカベとは言わず、ハツテンドウと申します。
天守櫓の脇にこの祠がありますが、社僧が居てその神につかえておりますよ。
城主も尊仰せでございます」とのこと
〔寛政『東行筆記』是予嘗録所下此傚〕。
- 関連記事
-
- 続篇 巻之21 〔3〕 疱瘡の神の祟り
- 巻之30 〔20〕 姫路城に出たヲサカベ
- 続篇 巻之28 〔10〕 中屋某、桑名老侯の相法す
スポンサーサイト
コメント