巻之13 〔15〕 林子、世の変化に思う事

 林氏が云う。

 人事の世に従って変わっていくのは勿論である。
疾病もその時世によることはその一つである。

年若きものの陽症は発狂の如く、陰症は健忘労瘵の如く、一種の疾あるのを押しなべて癇症とすることは近世の事である。
また中年以上の人の類の中の如く名状し難い疾を得るのを、俗称してよいよい病と云う、これまた近世の事である。
貴賤男女この病に罹るもの今は夥(おびただ)しい。

一時の流行の如くだが、自然と世風につれて疾も時々で変わっていくものと見える。

疱瘡なども以前は流行の時は総じて受けるけれども、いつもは絶えて無きことだが、近世は流行もそうはげしくなく、だが年々ちらほらとではあるが、絶えずある。

温疫(熱病、中風、傷寒、湿温、温病の五つの傷寒と総称する)なども、一般流行の勢いは無く、これも年々あちこちに少しずつ絶えずある。

しかしこれ等は時世に従うも理である。
不思議なのは夕立の模様の変化である。

以前は雨も雷も激しく、一霎(いちしょう、小雨、霧雨のこと)過ぎれば忽ち晴れて後は涼しくなったものであった。
が、近世は雷も雨もこの有り様で激しくも無く、悠々と刻限を移して、後もむしむしと暑くなるのが常となっている。
時世に従い天気まで違うも奇々妙々のことになっている。

至治(しち、天下が極めてよく治まること)の極みで人心和悦する時は甘露の降ること疑うべからず。
天人一里の所よくよく味わうべきである。

これ思うに林子の思う所あって云っているのだろう。
諷(ふう、風刺)のみ。
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