続編 巻之22 〔15〕 豹

この(己丑)正月、平戸からの便りによると、平戸嶋田助浦では、対馬人が生きた虎をつれて来たのを城の外門に呼んで見たという。
図も描かせたという。
図。この虎の来歴を聞き書きした。
一。文政九年戌の秋の頃、朝鮮国慶尚道かや山という山で、野焼きの火があやまって焼ける中に、虎が乳児ニ疋連れて、火を嫌ってあわてふためき廻るのを猟師四、五人でうちとめた。
その子ら二疋を捕まえたが、その国においても虎(図をみるとまるで豹のようだが)を生け捕りは珍しく、対馬に知らせると、町人らが買い取り、上方、江戸筋、各地で見せ物として持ち回りたいと願った。
対馬から公儀に伺いが成立した。
まず九州筋からだと苦しくなかろうと、昨秋、筑州、肥州、長崎辺りを周った。
加島へ向かうとき、一疋の子が餌に当たり死んだため、対馬へ立ち寄り、なおまた当月四日に対馬を出帆した。
壱岐の勝本てはしばらく滞留して、十一日、平戸田助浦に着用船した。
これから小倉へ向かう心づもりのよう。薩摩、大隅、日向筋はまだ廻るとは申さず。また伺い
相済次第で上方筋へ参り申すとのこと。
一. 豹の毛色に見えるが、飼い主がいうには虎とのみ云う。
あるいは虎豹の間の悪虎と云うものらしい(この飼い主の言い方は愚である。また虎豹の間に開く悪虎があるとは、俗説である)。

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一。背の渡り2尺七、八寸(81〜84㌢)ばかり。
首一尺(30㌢)あまり、尾ニ尺七、八寸(81〜84㌢)ばかり。
高さニ尺ニ、三寸(66〜69㌢)ばかりある。
大きな虎の一体は、体のわたり一間半ばかりあればよい。
これはまだ三歳でとくに籠の中で育てるので、長さを大きくせざるを得ない。
一。子を得るときは、猫ほどの大きさなので膝の上で飼い育てるとよい。
一。声は、ヲヲンウウンとだけ鳴いて、犬のうめきに似ている。
時に高い声を出し、物凄く、真似が出来ないほど(虎は詩文に多い。豹の鳴き声など書きつけたものはなし)
一。餌は鳥獣を専ら食う。脂身の少ない魚類を食うが、腹に当たるとよくない。
他の獣、猫は似ている為かくい殺しはするが、しっかり食わず。
犬は好物である。穀類は全く食わず。鶏の餌ぶくろなど穀類あるが、残して食わず。
野菜、芋、大根類も食わず。普段は一日に鶏の三羽ばかり食すると飽かないのか、先ず足りているようだ。
飽くまで食すると、至って静かに眠る。また食が足りないと、うろうろ廻り、食をあさる。
一。餌を与えるとき、鶏は毛を抜き、三つに切り分ける。
獣もこの様に、切って食わせる。
生で与えると、己れの毛をそり食するが、籠の中を汚すので、料理(切り分けて)して与える。
鳥獣の骨を噛み砕くことは、例えるなら人が煎餅を噛むようにして、歯にも当たらぬ感じである。

一。雌雄の区別は不明。よく観察をすることを嫌うので、男のようだが、飼い主も確かではない。
一。世の人は虎は雄だから、豹は雌ではないかと言っている。
飼い主は虎にも雌雄があるし、豹にも雌雄があると言っている(飼い主の言葉である。前説は違う。そのまま受け取らぬ様に、虎は雄、豹は雌と云う説)。
一。蝿蚊🦟ともに近寄らぬ。
一。両便とも場所が決まっている。正しくしている。
一。 築州で大守が見たところ、竹のやらい(竹を組み合わせた囲い)を結って、その中に虎の子を二疋放し、餌を生のまま与えられると、ニ疋は餌を争い取る有り様で、たけく鋭く目を覚ます。
一疋の虎が餌に手を付け、魁をすると、一疋は退き、やらいの隅におり、神妙に心を清くした様子は、こと獣の中でもすぐれている。
一。眼は丸く、形が変わる事はない。
一。飛び上がるのに、四、五間もあればよい。一。
今、一疋が加島で死んだのは、黄色に黒い星があって、中に穴がないとの事。
この度、つれて来たのは、黒い輪の模様の中に穴がある。
一。朝鮮の人の言葉に反応すると飼い主が言っている。
一。籠の高さは三尺余り、長さ一間余り、横三尺ばかり。
一。この度周防船に乗って行くとの事。
飼い主は五人ともみな対馬の人である。
文政十一年子十ニ月、対馬より町人らは、虎の子一疋を籠に入れてつれて来るのは、よく問い(話をよく)聞いて、虚実を弁じず、言うままにこれを記した。
    十ニがった十五日
追加
ある人が言うには。この獣が筑前に至るとき、かの城下にて、見物人の中に芸妓がいた。
籠に近寄り中を覗き、虎は手を出して、この婦人の髷を掴んだ。
婦人は怖れて、頭を引いたが虎は引かなかった。
とうとう頭髪はみな切れて激しくになってしまった。危ない事ではあるが、また可笑しいことである。


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