三篇  巻之61  〔4〕 御鷹野のはなし

 放鷹は武門の一事だが、わしは若年のとき試しただけなので、一向の不案内で恥じ入っている。
されども聞いたことは記憶していて捨てがたい。

 この度右大将様の御鷹野があって、それに孫も御供するし、御拳(おこぶし、江戸時代、将軍が冬季に江戸近郊へ出て自ら鷹を拳にとまらせて、鶴などを捕えさせること)も有って、後彼是(かれこれ)の御鷹話をしたのでここに書きしるす。
これはこの度の御場には限らない。

 雁は群の中に御鷹をかくれば、他はみな飛び去るが、一羽御鷹に押えられたら、飛び去ったものは、戻って御鷹を打つ。
因って御鷹は獲物を放すので、(雁が)戻ってくると見ると、御鷹匠は馳せて御鷹を助ける。
こういうわけで雁がまた飛び去れば御獲物になる。
他の禽(きん、とり)はこのようなことはない。

 鷺は賢く、御鷹がすばやく向かっていくと、そのとき首を縮めるので、御鷹は飛び過ぎて捕らえられない。
そうではないものは捕らえられる。

 五位鷺は、昼は眼が明かないのだろうか、飛ぶのが遅く捕まる。
そこでわしは「この禽の嘴は長くて大きな鋒(ほこさき)のようだが、どんな性質だろうか」と云った。
すると「この禽は眼がよく見えないので、凶貌な性質で愚かなものではないでしょうか」と答えた。

 鳬(けり、千鳥科の鳥)は、羽合わせが速くて、御鷹は難しいと。

 また〔己亥、つちのとい、天保10年、1839年〕晩冬の五日、早昧石翁を訪ねていくと、霜朝の苦労云々の挨拶より早速御鷹の話に及んだ。
「この頃の御鷹は何の鳥になるや(捕らえられますか)」と聞けば、
「この頃は鶴の御成だから、御獲物は禁廷(宮廷)へ御進献になります。御場に御獲物なければ、(上様の)御成が幾度にも及びます。御鷹も四居(しきょ、四羽)で、御拳で非ずとも、捕らえることができますよね。が、御拳でないと御進献になりません。因って必ず御拳をなさるのです。その御鷹は黄鷹ですが、四居中二居(二羽の鷹で)で二羽の鶴を得ることもあり、四居で三羽の鶴を得るときもあり、四居でみな捕まえることが出来ないこともございます」と答えた。

 二羽鶴ならば、今上仙洞へ御進献。
三つならば、この余りの一は大御所自身の御披ありと云う。
この御場前、必ず御小納戸頭取御鳥見を従え、御場、禽栖(きんせい、鳥の住み処)の様を窺い観て、言上し、御場を定める。
大抵二場には御獲物がある。
御鷹場は十一処あるが、鳥の寄り着き方なので御成は無い。

 そのために前びろ右の両役の下見分を為して、禽の居着を観て、そこに御成になると。
これ等、かの翁が以前に自歴した話である。

石翁がまた語るには、「聞くにこの御進献の鳥は、上方にても殊に御賞歓あって、一度ならず、御貯して何か供御(オンアガリ)をなされていますよ」とのこと。
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