2023/04/01
三篇 巻之25 〔3〕 西湖の柳のはなし
この三四年まえ、東に上がるわしのもとの医生が柳の樹の芽を携えてきて、わしに上げた。わしは「これは如何なる柳だろうか」と問うた。
「これは西土西湖のこのでございます」と答えた。
この西湖とは浙江蘇州府にして、かの国の名高い柳の樹の勝地である〔かの医生がこの柳を得たのは、そのはじめ長崎の通詞が渡来した清商に託して、親しく西湖の産を持ってきたのを通詞宅に植えて育てていたのを、医生がその枝を携えわしに上げたのだ〕。
わしは因って愛重して、園中の池辺に移植した。
それが年々茂っていき、今では多くの花が吐(ヒラ)く。
ある朝、園中を散歩すると、柳の樹の下に到ると、霜が地上に敷かれたように拡がっていた。
わしは従者に「時は既に三月の季(すえ)として、この様に霜が降ったみたいになっている。
若しくは夜にわずかな雪が降ったのだろうかね。
それならば時候にそぐわないなあ」と云った。
従者は「空中散歩する者は、正しく柳絮(リョウジュ、絮はわたげの意)となるのでしょう」と云ったのに、心づいて、顧みれば絮(わた)飛んで軽雪の翻るが如し。
だからさきに地に敷いたに見えるは、絮が散り落ちて、霜に見えたのだ。
『本草啓蒙』に云う。凡そ柳は春に葉の出る前に花が咲く。
六分許り、穂をなして黄色である。
後実を結んで少し絮が出てくる。
柳絮である。
けれども和産は絮が少ししか出てこない。漢種は多い。
俗に絮柳と云う。柳華という名を柳絮とは云わない。
花は黄色である。
絮は子に次いで生じる。
『食物本草』に、柳華とは黄色の蘂(しべ)の事を指す。
絮が飛ぶ、すなわち華の後に結実すると云う。
書いてあるように、わしの園にある近頃の漢種ならば、多くの絮は前の説と見合う。
また以下の言質を見れば、異邦の柳は同種でもその風土に同化していくのか。
わしの園の西湖樹は、飛絮もさほどには無い。
但しこれも未だ新木なるゆえか。
『本網』時珍が曰く。
楊柳は、春の初め柔かい荑(つばな)を生ず。
即ち黄蘂花を開く。春の晩に至り、葉長に成った後、花中に細黒子を結ぶ、蘂落ちて而(しか)も絮出づ。
白絨(ジュウ、毛織物のこと)の如し。
風によって而して飛ぶ。
子の衣物に着く。
〇弘景が曰く。
柳華熟す時、風に随う状は飛雪の如し。
当にその未だ舒(の)びぬものを用いるべし。
子また花に随いて飛ぶ。
〇臓器は曰く。
『本経』、柳絮を以て花と為す、その誤り甚だしいかな。花は即ち初めて発する時黄蘂、その子は乃飛蘂なり。
〇承が曰く。
柳絮は、羊毛に以て氈(せん、毛織物)に代ゆ捍(ふせ)ぐ可(べし)。茵褥と為して、柔軟性涼やか、宜しく小児に与えて臥しむ宜べし。尤も佳し。
〇宗奭が曰く。
柳花の、黄蘂乾く時絮方に出づ。これを収て灸瘡に貼すれば良なり。
多絮の柳到て稀なるものであります。
拙は元来柳好きであります。
絮を吹く種はとかく少ないですね。
来春正月の末この御園の柳の枝数本を御恵み下さるべく、念を押したく思います。
くれぐれも御忘なきようお願い申し上げます。頓首(敬具)。
四 十四
- 関連記事
-
- 続篇 巻之57 〔6〕 甲州恵林寺を詣でて
- 三篇 巻之25 〔3〕 西湖の柳のはなし
- 三篇 巻之57 〔10〕 鈴鹿山、田村麻呂の祠の宝物笠のはなし
スポンサーサイト
コメント