巻之12 〔10〕 徳廟御放鷹のとき叱る老農に、褒美を授く

また御鷹場先にて、すべて御手軽い御事となる。
これも何方へか御放鷹の時、附き従う人両三人にて、ある農家に庭に至らせると、米が四五俵積んであった。
そこに腰を掛けて御休憩あらせられた。
するとその家の勝手より老農が出て、目をいからし大声にて、「公方様へ御年貢に上がる米俵に尻を掛けるは掛けるは何者ぞ。勿体なきことよ」と大いに罵り、速やかに立ち去らせた。

その跡から供奉の人々が大勢来て、「もし(公方様が)この辺りに在せらるるや」と尋ね奉る様子を見て、老農ははじめて驚き、「今罵りし御方は公方様よ」と思いより、真に恐れ入った。

二三日経て御代官伊奈半左衛門より老農は呼び出された。
「これはこの程の事にて、いかなる罪にか陥るだろう」と案事を悩(わずら)いせん方なく、家内に暇乞いして泣く泣く出ていった。

伊奈氏が申し渡すには、「御年貢米の事大切に心得て、奇特の至りである。因って御褒美下さる」とて、白銀若干賜ったということ。
誠に隅より隅まで御行届の御政とて人々は感じ入ったという。
これは公鑑もの語である。

清(御自分)これを記すに及んで涕(なみだ)がつたい止まらぬ。
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