巻之62 〔23〕三田(さんだ)侯 

 この月に三田侯〔九鬼長州隆国〕がわが隠荘を訪われ、物語る中に、かの臣に福嶋正則徐国の後来て仕えている者が4,5家あるという。

 その家は何れも村正の刀を所持しているという。その刀はみな正則より賜ったと云う。

 何かなる故にやと語り始めた。

 またかの家には以前より貝吹と云う者がいて、代々その業を勤めとして、諸所を吹いて廻る。

 四辻に致れば、必ず歩みを止めて長く吹くことにて、偶々領主の通行にあっても拝伏しない。

 立ちながら吹くのだという。

 また同家に、旗奉行の人は世職にて、その下の旗下の旗指どもみな旗の指ようの修練、今ここに怠らずとぞ。

 因ってその習法を問うと、

「これは秘して人に知らせないのですが、それを手短に云うと、城のり、或は林樹のしげみ等ある所を行くとき、または城内へ乗り込む時の法などがございます。その中、塀下についたときは、旗指の左右の者が、指手の両傍に添って立てば、指手は直に両傍の者を蹈み肩の上に立ちます。それより左右の者が云々すれば、次第に塀へ昇っていき、して塀を越えるのです」

などと話したが、事繁くして忘れてしまった。
 
 また樹下の指ようはこう、城内にては旗をこう揮(ふる)うと云っていたが、これも初めに同じ。

 何にも昔の事をよく伝存する家であることよ。
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