巻之五十六 〈八〉 ある医師の話し(笑い話)

ある人が語った。
木挽町界隈に住む一候家の医師は相応に流行るが、人となりはおしゃべりで軽脱の資質である。
ある日、病人の家に招かれ往診したが、病は甚だ重いから、薬剤を断り、その上とても起き上がれないから、早く遺体を安置する棺を用意した方がよいと言って帰った。
それでも他の医師の治療で全快した。
その翌春の元旦早朝に新しい棺を掲げて、例の医師の玄関へ据えた。
付添の者は、取り次ぎの人を呼び出し、「去年の御診察のとき、用意すべしと教わり、この棺を造らせましたが、ところが測らずも、病は快復して、この棺は今は不要になってしまいました。
ですので進呈いたしまする」と言い捨て、その人らは去った。
元朝のことなので、医家も殊の外気に掛かったのだという。
珍しくも一笑い話である。
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