2023/08/24
三篇 巻之23 〔8〕鼓調糸のこと、御預鼓のこと
わしは小鼓の新九郎に問うた。「鼓の調糸、紫は免食、紅は常体である。浅黄しらべは、歌舞伎などに用いるのを見るが、本当にそうか」。
「浅黄は上(カミ)の御用にして能楽(ノウヤクシャ)の輩が用いることは出来ません」と答える。
それでわしは思う。「すると下賤にして浅黄をかけることは、全く最下の者の為すもので、類外の事であろうか」と。
新九また曰く、「某の祖〔曾祖父である〕休翁〔引退の名〕などの頃までは、上(カミ)の御鼓御預けとて、家に持ち還って蔵におきました。その上(ウエ)にて緒侯の所で能のあるとき、招くことがあれば、御預けの鼓を持って往き打つこと勝手次第なのです」。
わしは「時の次第は如何に」と問うた。
曰く「やはり浅黄調糸のまま打ちます。また囃子方は、橋掛かりの幕の片脇より出入りすることは常ですが、この御鼓を持ちだすときは幕を揚げ、鼓は装几と持ち添え出ること常ですが、この時は御鼓は台に乗せて、両手にて捧げて出ます。装几は介添えの者が別に携え従います」。
それより能を始める間は、台に乗せたまま己の前に置いて、はじまってからは常の如しだと。
また諸氏の宅に到って、通門のときは、御鼓と云うのを以て、扉を開いて出入りするとぞ。
まことに御威光赫々たることである。
- 関連記事
-
- 三篇 巻之23 〔9〕色々と耳に入ってくる邪説
- 三篇 巻之23 〔8〕鼓調糸のこと、御預鼓のこと
- 巻之77 〔14〕老境に入る者に非ざれば
スポンサーサイト
コメント