三篇 巻之23 〔8〕鼓調糸のこと、御預鼓のこと

 わしは小鼓の新九郎に問うた。

 「鼓の調糸、紫は免食、紅は常体である。浅黄しらべは、歌舞伎などに用いるのを見るが、本当にそうか」。

「浅黄は上(カミ)の御用にして能楽(ノウヤクシャ)の輩が用いることは出来ません」と答える。

 それでわしは思う。「すると下賤にして浅黄をかけることは、全く最下の者の為すもので、類外の事であろうか」と。

 新九また曰く、「某の祖〔曾祖父である〕休翁〔引退の名〕などの頃までは、上(カミ)の御鼓御預けとて、家に持ち還って蔵におきました。その上(ウエ)にて緒侯の所で能のあるとき、招くことがあれば、御預けの鼓を持って往き打つこと勝手次第なのです」。
 
 わしは「時の次第は如何に」と問うた。

 曰く「やはり浅黄調糸のまま打ちます。また囃子方は、橋掛かりの幕の片脇より出入りすることは常ですが、この御鼓を持ちだすときは幕を揚げ、鼓は装几と持ち添え出ること常ですが、この時は御鼓は台に乗せて、両手にて捧げて出ます。装几は介添えの者が別に携え従います」。

 それより能を始める間は、台に乗せたまま己の前に置いて、はじまってからは常の如しだと。

 また諸氏の宅に到って、通門のときは、御鼓と云うのを以て、扉を開いて出入りするとぞ。

 まことに御威光赫々たることである。
関連記事
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

プロフィール

百合の若

Author:百合の若
FC2ブログへようこそ!

検索(全文検索)

記事に含まれる文字を検索します。

最新の記事(全記事表示付き)

訪問者数

(2020.11.25~)

ジャンルランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
890位
ジャンルランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
歴史
131位
サブジャンルランキングを見る>>

QRコード

QR