巻之70  〔30〕 越中国の蟒蛇(うわばみ)

 邸内の僕に越中国の少年があって語ってくれたと小臣から報告があった。
 
 こんな話である。〔方言が聞き取りづらくあるがただ聞くままに録した〕。
 
 越中に白(しら)かい銀山駒ケ嶽並びにおすもん山があった。

 この両山には大きな谷があって渓間が沢山あった。

 その麓に大白川、また平瀬と云う里があった。

 その里人はみな猟師で、日々山中に入って、猿や鹿を獲て生業としていた。

 それなのに時として山中で鹿や猿を乏しくなって獲れないときがあった。

 このとき猟師は「山中に蟒蛇がある。谷間渓水の岸辺の石をみると、果たして巌穴の内に蟒蛇が居る〔猿や鹿は蟒蛇に食いつくされいなくなったか。または蟒蛇を恐れて逃げたか〕。
 
 これを見ると引き連れて行く犬の食物を穴の中へ投ずると、もし蟒蛇が穴内に居ると穴には入って行かない。

 蛇がいないときは入っていく。

 中でも牝犬は蛇がいるかいないかに敏感であった。

 猟師がこれを知ると、巌前に集まっては、棚を高く構え、上に数人登り、穴口には木を打ち付け壁を建てた。

 それより篝火を多く設け、蕃椒(とうがらし)を炉の火に加え窟中に投げ入れた。

 この煙を数人が扇ぎ籠めると、蟒蛇はその毒煙に咽び、穴の底より逃げ出そうとした。

 蟒蛇が動くとき風音のような音がする。

 すると棚上の猟師は、あらかじめ設けた鎗、薙刀を執って待ったいた。

 蟒蛇が壁をを破ろうとするのを、群槍で蟒蛇の頭を刺した。
 
 蟒蛇は尚ひるまず、首はすでに壁を出ようとしていたが、薙刀を持っていた者達が頭を切り離した。

 若し蟒蛇の頭を切り離さなかったらば、蟒蛇の尾が人を払い倒して勢いよく震電の如く、人みな傷を得ていただろう。因って安全を考えてこのようにしたのだと云う。

 また曰く。蟒蛇は1年に1度、或は3年に1度この山に棲んでいたという。

 またこの蛇を1年に両度(2度)捕る事もあったという。
 
 かの僕は蟒蛇を1度目にしたと云う。

 頭は平たく大きくて、蛇とは違う形状をしていて、耳があり極小さいと。その長けは長く、胴囲は3尺になろうか。これでも蟒蛇の小さいものであったとぞ。

 また曰く。この肉は食すべし。

 僕はこれを食し美味にて言うこと無し、と。

 但しそれは3年味噌漬けにしたものを食すこと。

 1年を経たものは未だ毒が抜けておらず、逆上(頭に血があがって取り乱すこと)を患すと。
   
 
 良安が『三才図』、『本綱』を引いて云う。
 
 巨蟒は安南雲南の諸処に生す。

(虫冉、トカゲか?)蛇の類にして四足のものである。黄の鱗と黒の鱗の二色が有る。

能く(鹿の比の部分に米、老いたの意)鹿を食す。

春冬は山に居て、夏秋は水に居る。能く人を傷す。土人殺してこれを食す。

○また按に(調べると)、(虫冉)蛇は本朝の深山の中に有り。

その頭は大に円扁(ひらたい)。

眼は大光あり。背は灰黒色。腹は黄白。舌は深紅なり。

その耳は小にして僅かに二寸許り、形鼠の耳の如く。然るに(虫冉)蛇に耳の有無を謂わず者は、審ならず。

○『説文』に(虫冉)は大蛇食べしと。是ら見合すべし。
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