2020/08/04
続 巻之ニ十五 〈一0〉 ムツゴロウ
孫啓が西帰りの途中で見たと描いた物を肥州(静山さまのご子息)より和州(不明)に送り、わしに転送した。ムツゴロウ(魚の名-欄外注記)、肥前国白石浜にいる魚である。
よそへ移しても生きられぬ。
おとがい(顎の下)の下鰭(ひれ)の様なものがあるが足である。
これでよく歩む。
人が来るのを知ると、躍って砂穴に入る。
矢の如く速やかである。
これを獲るには砂に穴を掘ってとる。
人の如く瞬きをする。大きい物で六寸ばかりとのこと。
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ここからは、静山さんが本草啓蒙と食療正要から転載された内容。
『本草啓蒙』に云う。石ひつ(魚に必)魚。ムツ→京(ムツと京では呼ぶ)。カワムツ→京。モツ。モト→若州。ヤマブト→勢州。コウジバエ→阿州。
渓潤流水及び池沢に多くいる。形はハエに似て狭長。細鱗に嘴は尖り、口は大きい。吻に砂がある。よく虫を食う。小さいもので六七寸。あるいは八九寸に至る。色は淡黃褐でわずかに黒が帯びる。脇に一本の黒い線がある。上下の鰭(ひれ)の色が赤くなるのをテリムツと呼ぶ。またアカムツ→江州、コケムツ→江州と云う。
これに対し常に小さな物をクソムツ→江州、シロムツ〈『食療正要』と云う。また海魚にムツがある。一名ロクノイヲ(奥州。国名を避けて名を易しくしている)、クジラトオシ→筑前、東西諸州にある。筑後筑前の泥海に最多しと『大和本草』にあり。形はニベに似て小さく、紫黒色で黒線がある。細い鱗に大きい頭、眼もまた大きい。尾には股がなく、鱗は硬い。身の長さは七八寸、あるいは尺の物もいる。油多し。煎じて灯油にする。肉の味は蛋白、下品〈げひんではなく、上物ではない〉である、〉である。
以上静山さんによる転載終わり
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また聞く。
同州(肥前)の小城(オギ)戸川の辺りでは、売り物として、旅の客が買い求め、旅中の馬上で食べていて、すこぶる珍味だとのこと。
またある人が云う。「この魚は佐賀領に多くいる」。
また云う。
「かつてこの魚を長崎で見たが、とくに性分強い物と知った。料理されるところを見たが、首と尾を切り離すときに、首と尾の肉が動いて生きている様であった。形はイモリによく似ている。だからかの地の人は賞味しても、形がイモリに似ているので、心もち悪くて人は食べようとしないなあ」。
また云う。
「かつて佐賀領の旅宿で膳が出された時、平椀の蓋をとり見ると、中にイモリが入っているではないか!驚いて女中に聞くと、ムツゴロウですと答えたと」。
と、するとイモリによく似ている物だろうよ。
そうしたら前の図と形状が違うのではないか。
べつの種類なのか。
わしは思う。
この魚はムツと云うのを、ここ佐賀ではムツゴロウと云うのは、イモリに似ていると云えば、イモリは黒色だから、ムツグロと謂うべきを、肥人の訛りで、グロをゴロウと呼ぶ物になったのではなかろうか。

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