三篇  巻之1  〔11〕妖に遭うた人達の言葉

 
 ある日金三郎の宅を訪ねた。

 金弥も来ていて、相共に話すうち、金三が「同勤の御小納戸は今は退役していて寄合の飯室兵庫と云うが、嘗て御休息とか御厠に往ったが、月が殊に明るく御障子に影差し、快く天(ソラ)が晴れわたり面白い景色だと思ううち、不図省(おも)ってみれば今夜は晦日であったとか。いつか吾は妖物の為に惑わされたことがあったと思えば、頻りに恐ろしくなってようやく部舎(ヘヤ)へ逃げ帰ったそうです。またある夜宿番にて臥睡していると、これも不図目覚めて視ると、己の臥裯(ネドコ)のままいて天井と近づいていたそうです。如何にと驚いたらそのままはじめの臥処(フシド)に臥していたそうです。これも何か狐狸の誑(たぶら)かすものでしょうか」と金三が云った。

 「某等御書院番の詰めている虎の間の次は闇(クラ)がりの間と云いいますが、宿番の組頭はこの間に臥(ネル)こと定格ですが、ここに臥睡すればいつもそのまま天井に近づきます。そして驚いて視ればやはりはじめの臥場(ネトコ)なのですね。この様に今は定法の所には臥(ネ)ずに部舎(ヘヤ)の中にて宿番をなすそうですよと金弥が云った。すると広い御間中、前条と処は違えても怪事は同類の所為であろう。

 またわしが領内の津吉と云う処に、文益と云う軽い者が母といる。ある闇夜のことになるが、向うより三間ばかりの光明が朧月のように響きがあって漸々と近づいてくる。母子は不審に思う中近づくのを視ると、光の中に一物あって猫のように白い。家に上がろうとするのを母はこれを叱った。怪は即ち去るにも再び響きがあった。人は「白い獣は全く古狸でしょうね」と云った。

 すると飯室氏の驚いた暗夜の晴月は、大城も久しい所なので古狸も所為であり、西東逈遼(けいりょう、はるかに遠いの意)も違いはなかったのだ。 
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