巻之五 〈三六〉 三十一文字の歌章の箏曲、歌の基本

わしは久しく思う事がある。
古は歌は『うたう』ことであったが、今はウタ(本文は歌の左側だけを以て)は『よみい出たる』ばかりで、『うたう』ことがない。
流行りのうたは別にその詞があって、とくにかりそめにも、花前月下などウタをよむとき、その詞を弦詠(琴などに合わせて)しようとした。
その頃名の売れた山田豊一を謀り、山田にわしの為に三十一文字の歌章の箏曲を作らせた。
その後、家老長村内蔵助が帰村する時にも、また長村伊勢守が堺の奉行となり任地にゆく時も、わしは餞別の歌をよんで、竹に(書いて)侍妾に弦詠すれば、伊勢も長村もこと更に感悦して興味深くしてくれた。
長村を餞する時には
鶯の谷より出て峰たかき
       霞にうつる春の初こえ
(と歌った)
伊勢を餞する時には
住の江の松と久しきやがてまた
       岸による波かへりけん日も
(と歌った)
つまりいつか世の中でも、風雅を好む者はこの箏曲を用いるだろう。
林氏はこの事を面白い思いつきだと、度々激賞した。
後に基本を知らぬ様になった時の為に、記し置けと勧めるままにここに記す。
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