巻之二 〈26〉 節分の奇風習

先年のことである。
お城でわしは九鬼和泉守〈降国〉に問うた。

「世間で聞きましたが、貴家にては節分の夜は、ご主人が闇室に坐していると、鬼形の賓客が来て対坐するそうですが。
その時、小石を水に入れて、吸い物を出すとサクサクと音がするとのこと。
人の目には見えないそうですね。この様なことがあるのですか」。

答えるに「拙家では、かつて件のことはありません。
節分の夜は主人が恵方に向かい坐につくと、歳男が豆を持ち出して、尋常の様に打つのです。
但し、世間と異なるのは、その唱を『鬼は内、福は内、富は内』と言うのです。
これは上の間に坐す主人の所で言って、豆を主人に打ちつけるのです。
次の間を打つには、『鬼は内、福は内、鬼は内』と唱えます。
この他、年越しの門戸にさすヒイラギ、鰯の頭は我が家では用いません」。

これも又、一奇である。

(コメント)
これは、摂津国三田藩の領主は九鬼家で、殿様の名字に“鬼”の文字が入っているためです。
「鬼は外!」といえば殿様を外に追い出すことになってしまうから、「鬼は内!」になったのでしょう。
静山公は噂になっていた話を、三田藩十代藩主・九鬼隆国に直接確認して、この文章となった。
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コメント

No title

これは、摂津国三田藩の領主は九鬼家で、殿様の名字に“鬼”の文字が入っているためです。
「鬼は外!」といえば殿様を外に追い出すことになってしまうから、「鬼は内!」になったのでしょう。
ただ、静山公は「鬼の姿をした客が暗闇で当主と対峙して小石と水を入れた椀を音をたてて飲む」という噂話しを、九鬼隆国(三田藩十代藩主)に直接確認したが、その噂は違っていたということでしょう。

No title

木村 さん
興味深いコメントをいつもありがとうございます。

No title

原田 さん 自分の理解のために書いています。ブログにもコメントとして追加したりして後で理解が容易なようにしたいと思います。この辺の深読みはわかる範囲で残すのもいいですよね。

No title

木村 さん
はい。私の文だけでは、何を書いているのかわからないと思いますので、よろしくお願いいたします。流石木村さんの御文章です。
でも木村さんに、あまり御手を煩わせているとしたら本意ではありませんので。江戸時代の様子が少しわかりたいなあと気軽に始めたものなので。

No title

原田 さん
江戸時代の様子が良くわかりとても参考になります。滝沢馬琴や中里介山の本などにも江戸の庶民が描かれていたりしますが、当時の藩主がこのように書いたものは大変珍しいです。寅吉以外にも天狗小僧は結構いたみたいですね。こんなものも面白い。ただ、何しろ甲子夜話はまだまだ分量が多そうですね。気長に気楽にやりましょうね。

No title

木村 さん
はい。そうですね。
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