巻之五十七 〈14〉 財を守る知恵

ある人が語る。
この秋の末から盗賊がすこぶる多い。
ある所で侍が行きがかった後ろから、賊が来て飛びかかった。
頚椎を抱えて、粉唐辛子を両目にすり込むのだ。
侍は痛みに耐えられず両手で目を庇ったところに、また一人が走り寄り、両刀を抜き取り、帯を奪い、衣服、懐中の物まで残らず剥ぎ取り、裸体にして賊は逃げ去った。

また一所。
鰻魚店に少女が来て、蒲焼きを買って喰い、価直(本文ママ、価値つまり代金)を払い、出た。
座った所に日傘を遺し置いたので、店の男は追い掛けて渡そうとしたが、はや行き去り、姿が見えなかった。
ならば取りに来るだろうと傘を(店に)置いていた。
ところが、夜入り口を閉めようとすると、婦女の声で「昼ほど置き忘れた日傘を返してくださいな」と云うので、何気なく戸を開けると、屈強の悪少年が五六輩、一同に白刃を振りながら入り、恐嚇して財を盗み去った。

また一所。
水油(髪につける油、椿油、菜種油)店で、町の召使いと見える前髪のある子どもが、油次を提げて若干の油を買いたいと云う。
それで油を渡すと、「銭を忘れてしまったので、後で取りに来ます」と云う。
その深夜に外から「昼の油次を受け取りにきました」と声がする。
店主は心得たもので、「夜更けに渡すことは出来ないねぇ。明日、朝に来なさいよ」と答えるた。
すると別な声がする。「今夜用いる油がないのです。今欲しいのです」と云っている。
店主はますます怪しく思い、「宵から夜半まで油がなくともいられるだろう。今はいるのはないはずだよ」と云い捨てた。
そっと二階へ上がり、外を伺うと、戸外には大男が四五人集まっているではないか。
ではと、金盥(かなだらい)を叩き音を立てると、近隣みな集まってくる。
その様に賊は(驚いて)退散したと云う。

近頃の盗みはこの様に知術を使い、人を欺く習わしとなったのだ。
これまた風俗が一変したことよ。
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コメント

No title

江戸の盗賊もいろいろ悪知恵を働かせていたようですね。長谷川平蔵などの盗賊改めや岡っ引きも忙しかったのでしょう。今のご時勢も段々怪しくなってきていますね。

No title

今ある事は昔もあったのですね。自衛して、お人好しばかりではいられませんね。

No title

便利になり電話などはだましの道具にもなるということですね。今は隣近所付き合いも希薄になり、一人暮らしの年寄りも多いので根本的な見直しも必要でしょう。共助も大切だけど、それだけで良くなる気もしないです。まあとられる物がないのが一番安心かしら。

No title

木村 さん
そうですね。
たぶん、社会の構造も疲弊していて矛盾もあって。。。

No title

江戸時代のオレオレ詐欺ですね!

No title

中田 さま
そうですね。昔からあったとは。、。乱暴そのもの、ですね。

No title

泥棒の嫌うこと
①人の目
②音
です。昔も今も、基本は同じですねー。

No title

丸尾 さぁ
そうですねー。
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