三篇 巻之十ニ 〈1〉 盛姫君、浜御庭御入り  その2

ことにまたうるわしい御こうがい(ヘラ型の髪飾り)を給わると、いよいよまれな見るものが珍しいと奉った。
いかり縄(碇の頭につける縄)が浜辺のちどりとりどりに
     たぐひも波の玉の竿
ここでまた団扇の形をしてかさね硯を給う。これは輿に携えて、道すがらの事を書こうと、こと更にとても嬉しくて、如何言い続けられたか。
言の葉に硯のうみの浅からぬ
   君が恵をかきてあふがん
また海辺の様子をそのままに写した御鏡、白がねで作られた花の御胴締め、御扇など御持ち物全て、すぐにその御様子を言い表す事が出来ない(程素晴らしい。
明くる日の出立(浜御庭に向けて)なさるのを待てない嬉しさを、「まして今日は葉月三日」と言われた。夜も明けわたる頃に出られた。
道すがらの家居が多くあるのを見るみると、賤の女が極近くに居るのを、「とても珍しいわ」と見ながら、猶行くと、だんだん浜辺の御坐所(おましどころ)に着かれた。
あちらこちらを拝見なさると、色々な草花に沢山の魚どもを置かれている事がとても並々でない。
猶人々に誘われて海辺の御茶屋に急ぎ行かれた。海を遠く見渡せば、

あかねさし出る光を波のうへに
     みるもめすわらし浜の明ぼの

それから釣殿に参られた。
釣棹の差し引きなど、人々が教え給えると、とても嬉しくて珍しくて、

海ふかき君と臣とのめぐみにて
    けふぞ釣り得しいほ(魚)のかずかず
               続く

※葉月三日に浜のお庭に行くことになって、好奇心は止まりません。夜が明けぬ内に出発なさる。見るもの聞くものを書きつけようと筆を携えられて。。。
家々の並び、市井の女、花々、魚の並ぶ様。御茶屋に行ってもキラキラ光る波にはしゃがれている御様子です。釣りにもトライなさった様ですね。

※途中出てきた『いほ』は、魚で、鹿児島弁で魚を『いお』と言います。方言は古語の名残りがあるのがわかります。
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今、甲子夜話のお稽古でご紹介しています盛姫君の夫鍋島直正公は佐賀藩きっての名君です。
どの様に通って行かれたのか、参考までに。
盛姫君は残念ながら37歳の若さで御逝去されますが、夫と共に藩の危機を乗り切られたそうです。
https://www.city.saga.lg.jp/main/3856.html
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