2020/12/27
三篇 巻之十ニ 〈1〉 盛姫君、浜御庭御入り その2
ことにまたうるわしい御こうがい(ヘラ型の髪飾り)を給わると、いよいよまれな見るものが珍しいと奉った。いかり縄(碇の頭につける縄)が浜辺のちどりとりどりに
たぐひも波の玉の竿
ここでまた団扇の形をしてかさね硯を給う。これは輿に携えて、道すがらの事を書こうと、こと更にとても嬉しくて、如何言い続けられたか。
言の葉に硯のうみの浅からぬ
君が恵をかきてあふがん
また海辺の様子をそのままに写した御鏡、白がねで作られた花の御胴締め、御扇など御持ち物全て、すぐにその御様子を言い表す事が出来ない(程素晴らしい。
明くる日の出立(浜御庭に向けて)なさるのを待てない嬉しさを、「まして今日は葉月三日」と言われた。夜も明けわたる頃に出られた。
道すがらの家居が多くあるのを見るみると、賤の女が極近くに居るのを、「とても珍しいわ」と見ながら、猶行くと、だんだん浜辺の御坐所(おましどころ)に着かれた。
あちらこちらを拝見なさると、色々な草花に沢山の魚どもを置かれている事がとても並々でない。
猶人々に誘われて海辺の御茶屋に急ぎ行かれた。海を遠く見渡せば、
あかねさし出る光を波のうへに
みるもめすわらし浜の明ぼの
それから釣殿に参られた。
釣棹の差し引きなど、人々が教え給えると、とても嬉しくて珍しくて、
海ふかき君と臣とのめぐみにて
けふぞ釣り得しいほ(魚)のかずかず
続く
※葉月三日に浜のお庭に行くことになって、好奇心は止まりません。夜が明けぬ内に出発なさる。見るもの聞くものを書きつけようと筆を携えられて。。。
家々の並び、市井の女、花々、魚の並ぶ様。御茶屋に行ってもキラキラ光る波にはしゃがれている御様子です。釣りにもトライなさった様ですね。
※途中出てきた『いほ』は、魚で、鹿児島弁で魚を『いお』と言います。方言は古語の名残りがあるのがわかります。
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コメント
No title
どの様に通って行かれたのか、参考までに。
盛姫君は残念ながら37歳の若さで御逝去されますが、夫と共に藩の危機を乗り切られたそうです。
https://www.city.saga.lg.jp/main/3856.html
2021/01/08 12:31 by 原田 URL 編集