巻之十八 〈23〉 その1 異類婚姻譚に思う

領内志佐村松山田と云う所の農夫の娘が妊婦になるが夫がわからない。
お産に臨み難産になった。

父母もこれはちょっとと、とりあげ婆の手には頼らずに、田舎には牛の子を産ます人があるのでそれの上手な文蔵と云う者に、「産ませてくれよ」と頼み、果たして子を生んだ。

しかしこの娘は、前から産んだ後に人に子を見せるのを憚っていた。
どう頼んだのか、子が出ると文蔵は即ち戸外に取り捨てた。
何者かが戸外にて待っている様で、直にその子を抱き取ったらしく、すさまじく草木が鳴る音がして山中に走り行く音が聞こえた。何者か、山神でもないだろう。

その娘、初めから産後に子を人に見せぬつもりだった。
また時々その家の辺りに怪しきものが来ることもあったという。

かの文蔵も産子の様子を一向に人に語らなかったので、未だに知る人はいない。

考えるに、蟒蛇(うわばみ)の人と交わったか。前に云った、わしの邦の河太(かっぱ)、異域の猿の様に、好男子となって女を犯した事があった。

昔の源平合戦の頃、寿永二年に豊後国の住人、緒方の二郎惟義の祖は、日向国塩田大太夫と云ったが、娘の名を花の本と云うに、立烏帽子に水色の狩衣を着た廿四、五ばかりの男が通って来て契りを込めた。

後に姥ケ嶽の窟に住む大蛇だった事が知れた。かの祖はその大蛇の種で容顔もゆゆしく心ざまも猛ることが、『盛衰記』に見える。

続く
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