巻之ニ十一 〈6〉 水天の呪術

平戸の下方に快行院と云う修験があった。
子どもは十三、四を長として七つ八つまで多くいた。

快行院では時々その長子を従えて湯立ての祈祷をした。
湯が沸騰するのを待って湯加減を見る、または物を注ぐのに火傷をしなかった。
この時専ら「ヲンバロダヤソワカ」と云う真言を誦する。

するとこの子ども達は聞き覚えた。

ある日快行院で他行するのに、田舎なのでいろりに鍋をかけてある辺りに家の子どもも隣家の子どもも多く集まり、炉辺を取り囲んでいた。
湯立てをする為に、薪を焚べていたが、湯が湧くと同時に真言を数編唱えたら、湯は何と、次第に水になったのだ。
子ども達は笑って何処かに行ってしまった。

それから快行院の夫婦が帰って来て、火を焚きつけようとするが、如何にしても湯が沸かない。
不審に思って立ち回る内に隣の婦人がやって来た。
夫婦は「どうしたものか湯が沸かない」と云うと、婦人は子ども達の戯れを話した。
夫婦はこれを聞いて心底驚いた。
快行院は湯に還る真言を誦した。
やがて水は湧き上がって飯を炊く事が出来たと云う。

かの真言は水天の呪術だと云う。
子ども達の戯れは誠一だから感応して湯は水に戻ったのだろうな。

※ 真言で天部の神の一人の水天を「oṃ varuṇāya svāhā」(サンスクリット語)というという。竜を支配するとされるという。
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